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第55話 知らされた過去(6)

***  ローブをまとった黒豹が食堂に現れたと同時に、パチリと目を覚ましたのは、エリィだった。  捕えた黒豹には呪縛の魔法をかけておいたものの、コイツが戻らなければ誰かしらが追いかけてくる可能性があった。黒豹はハザール家の者に間違いない。あのネコたちの家から追いかけて来た臭いは、確認するほどのこともなく、あの黒豹のものだった。わざわざ、あの家の者がこんな田舎まで出向いてくるからには、必ず曰くがあるはず。  状況が状況だっただけに、いつでも行動ができるように着替えもせずにベッドに横になっていた。ゆっくりと身体を起こしたものの、ベッドからは降りず、耳を澄ますように一点をジッと見つめ続けた。下に現れたのが何者であるかはわからないものの、自分同様、魔術に長けた者であることは感じ取ることができた。  今頃、ノアはレヴィに守られて安心して眠りについているに違いない、と、思ったエリィは、身じろぎもせず、敵の反応を待ち構えた。万が一の時には、自分が彼らを守らねばと思った。しかし、徐々に敵の存在が消えていくのを感じ、相手もここでは手を出してくる意思がないことを悟る。  ベッドからゆっくりと降り立つと、部屋を出て食堂に向かう。ドアを開けて中を確認するころには、捕えられていた黒豹は完全に消えていた。しかし、もう一人が残した魔術の残り香が、エリィに相手を認識させるには十分だった。 「これは……ザイル・マフか」  その名前を呟いたエリィは、少しばかり楽しそうな顔で、口元を緩めていた。

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