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第59話 知らされた過去(10)
エリィさんは、僕がジッと見ていることに気づくとティーカップをテーブルに置き、もう一度大きく微笑んだ。
「どうかしましたか?」
「あの……黒豹は?」
こっそりとエリィさんに気になっていたことを問いかけると、困ったような顔をした。
「ん~、逃げられてしまいました」
「えぇぇっ!?」
僕は思わず大きな声で叫んでいた。
だって、そうでしょう?あんなカチンカチンに身動きができなそうだった黒豹が、どうやったら逃げられるというのだろう?
「あ、あの、まさかと思いますけど……エリィさんが寝たら消えちゃう、なんていう魔法じゃないですよね?」
まるで魔術の初心者のようなことを問いかけてしまう僕。そんなことはありえないのは、わかっていても、ついつい言葉にしてしまった。
「やだなぁ、ノア。私がそんな間抜けに見えるかい?」
「え、いや、そんなことはないですっ。で、でも……」
「彼を助けに来た者がいたんだよ」
そう答えたエリィさんは、少し楽しそうに答えた。僕がびっくりして、エリィさんを見つめていると、柴犬のおじさんが僕の目の前に朝食ののった皿を静かに置いた。
その後ろから、おじさんより少し小柄な柴犬のおばさんが、湯気のたったマグカップを持って現れた。少し甘い香りを放つそれは、熱々のコーンスープだった。
「あ、ありがとうございます……」
おばさんは、僕の言葉にニッコリ笑って奥に戻って行った。
僕は、エリィさんの反応が気になって、再びエリィさんのほうを見る。テーブルの上に置かれたティーカップは、すでに空になっていた。
「さぁ、早く食べてしまいなさい。その間に、昨日の続きの話をしよう」
そう言われて、僕は目の前の美味しそうなパンに手をのばした。焼きたてのパンなのだろう、手に温もりを感じ、顔がほころぶ。
「そのパン、美味しかったぞ」
先に朝食を食べ終えていたエミールが、ティーカップを手にしながら真面目な顔でそう言った。
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