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第60話 知らされた過去(11)
僕がパンにバターを塗り始めたところに、レヴィが現れた。そして無言で僕の隣に、どっかりと座る。彼の目の前に、柴犬のおじさんが、僕のよりもボリュームのある朝食を置いた。
「さて、何から話そうか……」
エリィさんが、腕組みをしながら天井を見上げた。柴犬のおばさんが大きなティーポットを抱えながら、エリィさんのティーカップに紅茶を注いでいる。
「えと、エリィさんが、子守って、どういうことですか?」
レヴィとエミールが僕と従兄弟だというのはいいとして、エリィさんの存在がよくわからなかった。
「私の父親は、もともと王家専属の魔法使いでもあったんだけど、君の父親のリーナスとは親友だったんだ。だから、よく僕も遊びにいってたんだけど、ある時、フローラが体調を崩した時があってね。その時、母の手伝いで君の家に行ってたのさ。その時以来、僕が君の面倒を見てたわけ」
「俺たちがノアと遊んでる時には、必ずエリィがついてきてたんだ。本当に、邪魔くさいくらいに」
ブツブツと言いいながら、目玉焼きの黄身を崩し、それにベーコンをつけるレヴィ。
「それは、君たちがいつもノアを泣かせたからだろう」
「泣かせてないよ。可愛がってただけだろ」
「レヴィのあれは、可愛がってたとはいえないだろ」
呆れたような声で突っ込むエミール。
「そういうエミールだって、ノアのことバカ可愛がりしてたじゃねぇか」
「お前ほどじゃない」
エミールはクスクス笑いながら立ち上がり、柴犬のおじさんたちのいる奥に向かっていった。どうしたんだろう?と思って目で追っていくと、しばらくすると奥からコーヒーの匂いが漂ってきた。エミールもレヴィも、本当はコーヒー党だからか、わざわざ聞きにいったのかもしれない。
ほのぼのとした雰囲気の中、僕は迷いながら、気になっていたことを口にした。
「え、えと、なんで僕は……養護施設にいたんでしょうか」
僕の言葉に、一瞬、空気が固まった。誰も、僕の質問にすぐには答えてはくれなかった。不安になりながら、三人の顔を見比べる。
「あの……」
「それは、私たちの誰もわからないよ」
エリィさんは悲しそうな顔で、僕を見つめた。
「その代わり、私たちが知っていることを教えよう」
エミールがいい香りをさせたコーヒーカップを、器用に三つ持って戻ってきた。それを、レヴィ、エリィさんの前に置き、自分の分を持ちながらゆっくり座る。
「ノアが私たちの目の前から、いなくなったあの日のことを」
どこか遠くを見る様な目で、エリィさんは静かに話し始めた。
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