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第62話 襲撃者(1)
エリィさんの話が終わる頃には、僕の目の前に置かれた紅茶はすっかり冷めてしまっていた。
僕の父は殺された。
その事実は言葉として認識はできても、僕の中では現実としての実感がまったくわかない。写真で白金の狼の姿を見ても、それが自分の父だと認識できなかったことも、あるかもしれない。そして、僕の心の中におじいさんの言葉が突き刺さっているんだ。
『獣人などには、心を許さないように。お前の母親は、獣人に騙されたのだから 』
おじいさんは、父のことを言っていたのだろうか、と。あの写真で見た父と母の姿は、とても幸せそうに見えた。
「レヴィから、魔法学校でノアを見つけた、という話を聞いた時には、驚きと共にようやく見つけられた、と、とても嬉しかった」
エリィさんの瞳の奥には、優しい光がこもっているように見えた。この人は、嘘はついていない、そう本能的に感じる何かがあった。
「だけど、君が大魔法使いナレザールに引き取られていたことは、皆が驚いていた。どうやって、彼は君を見つけたのだろうか、とね」
それは僕だって不思議に思った。
「おじいちゃんとおばあちゃんは、僕が五歳の頃、養護施設に突然現れました」
あの頃のことを思い出すと、今でもジクジクと胸が痛くなる。
男の子なのに、周囲の男の子たちからは『女みたいだ』といじめられ、いつもどこかしらに傷を作り、女の子たちからも、なぜか距離をとられていた。だけど、僕にはどこにも行くところがなかった。逃げ出したいと、思いながらも、そうする勇気がなかった。
おじいちゃんたちが迎えに来てくれた時は、二人が本当のおじいちゃんとおばあちゃんか、なんてことよりも、ここから連れ出してくれる、それだけで十分だった。
「どうやって見つけてくれたのかは、わかりません」
冷めた紅茶を飲み干す。
「あの頃は、あそこから助けてくれただけで、十分でしたから」
「ノア……」
隣で僕の顔をジッと見つめていたレヴィが、急に抱きしめてきた。
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