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第69話 襲撃者(8)

 魔法商人とは、魔法の道具類を取り扱う商人で、レヴィの家には何人かの魔法商人が出入りをしているらしい。 「エリィのような魔法使いたちは、直接魔法街にある魔法商人の店に行ったりするんだけど、王族の場合は決まった魔法商人がいる。その中には、自前の店を持っている者もいれば、あちこちに放浪して仕入れてくるような者もいるんだ」 「なんか、すごいですね」  僕が目を見張って感心していると、 「ノアも魔法商人から買ったことあるぞ」  エミールが面白そうな顔で僕の顔を覗き込んできた。 「え?」 「入学式の後、講堂の後ろのほうでいろいろ教材とか買っただろ?あれも、魔法商人だよ。あれは人間の国のほうの魔法商人たちだったけどな」  あの時見た人たちは、スーツを着た人たちだった。見かけはとても若い人たちだったし、普通に物を売りに来た人としか思えなかったし、そういう『魔法商人』とかいう人たちとは思わなかった。  人間のほうの魔法商人たちは、あまり自分たちのテリトリーである魔法街から出てこないらしい。実際、人間の国の魔法街に入るのは大変らしく、一般の人間には見つけることすらできない。十何年に一度、迷い込んでしまう人がいるらしいけれど、本当に稀なことらしい。それでも、そのテリトリーから出てきて魔法学校の入学式に来るのは、将来の顧客である生徒たちを見定めに来ているのだそうだ。  その点、獣人の国のほうが緩やからしく、普通に入り込むことも、出ていくこともできる。見つけにく場所にあるにはあるけれど、人間の国の魔法街に比べれば容易く見つけられるそうだ。そこからも魔法に対しても許容範囲が広いお国柄というのがわかる。 「レヴィ、ムハーズルのじいさんがこっちに向かってくれるらしい」 「何、あのじいさん、まだ生きてたのか」  そう言いながらも、嬉しそうな顔をしているレヴィ。ムハーズルさんは、前国王の友人でもあり、レヴィたちが小さい頃に魔法の初歩を教えてくれた獣人らしい。 「本当なら、ノアもムハーズルに教えてもらえたのに」  少しばかり寂しそうな顔をしながら、僕の頭を優しくなでるレヴィ。その様子からもレヴィが、そのムハーズルさんを慕っているというのがわかる。 「しかし、じいさんじゃ、移動時間がけっこうかかりそうだな」 「そうだな、たぶん、あのボロ箒でやってくるんじゃないか?」  楽しそうにいうエミールに、レヴィも苦笑いする。 「とりあえず、今日中に大きな街まで出て、そこで出会えることを祈るしかないか」  なんだか悠長な話になっているような気がしてならない僕。だけど、今は三人の言葉を信じるしかない。いつの間にか、バスは動き出していて窓の外は、昨日見たのと同じような、一面の畑が広がっていた。

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