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第70話 襲撃者(9)

 長閑な風景に、ついウトウトしていた僕は、いつの間にかレヴィの肩に頭をのせて眠ってしまっていたようだった。薄っすらと目を開けると、バスの中はほぼ満員の状態になっていた。当たり前なのだろうけれど、乗客は全員獣人で、人の格好をしているのは僕だけ。そのせいか、チラチラと看る、獣人たちからの視線を感じてしまう。  僕は眠い目をこすりながら、窓の外を見る。さっきまでの田園風景から一変、完全にビジネス街のように高い建物が連なっているように見える。思わず、外の景色に呆然としていると、「ノア、降りるぞ」と、レヴィに声をかけられて、慌てて席を立った。  僕たちが降りたのは、かなり大きな街の駅前のロータリーで、様々な色のバスが止まっていた。 「ねぇ、ここでも十分大きいんじゃないの?」  僕の前を歩くレヴィに声をかける。バスの階段を降りきると、周囲をキョロキョロ見渡した。今朝までいた村に比べたら大都会に僕には見える。置いて行かれないようにレヴィの後ろを小走りでついていくと、レヴィが振り向いて僕の肩に手を置いて軽く抱き寄せながら歩きだす。 「いや、ここはターミナル駅みたいなもんだ。魔法街もここにはないし。買い物をするには向いていない」  わざわざ僕の耳元まで顔をよせながら、説明するレヴィ。話すたびに頬にかかる息に、なぜだかドキッとしてる僕。そして、レヴィが僕の歩くペースに合わせてゆっくり歩いてくれてることにも気づいてしまう。僕のことを気にかけてくれてることが、ちょっとばかり嬉しくて、無意識に顔を俯いてしまった。 「レヴィ、ちょっと時刻表見てくる」  エミールはレヴィの返事も待たずに、駅の建物の中に入っていった。僕はレヴィたちと一緒にその建物の前で待ちながら、改めて周囲を見回した。ターミナル駅というだけあって、たくさんの電車が通っているのか、かなり大きな駅のようだった。そして周囲には会社の名前のついたビルがいくつもある。だけど、レヴィがいう通り、買い物ができそうなデパートみたいな建物は見当たらない。  少しがっかりしながら、エミールが戻ってくるのを待つ。その間にエリィさんは、またどこかに連絡をしているようだった。エミールはすぐに戻って来た。 「待たせたな。乗りたかった電車がちょうど出てしまったばかりで、次の電車まで三十分くらいだ。今のうちにどこかで飯食うか、弁当でも買うか。」  そう言いながら、駅のほうを見るエミール。 「エミール、その次の電車は?」  エリィさんが電話をしながら、そう聞いてきた。 「え?たぶん、三十分おきに出てるから今から一時間後くらいかな」 「だったら、ちょっと知り合いのところによっていいかな?」  そう言いながら、誰もいいとも言ってないのに、電話の相手に「これから行くから」と楽しそうに話をしている。 「おい、エリィ、どういうことだよ」  レヴィが苛立たし気にエリィさんに歩み寄る。僕も早く移動できるなら、移動したい。 「こっちで小さな店をやってる知り合いがいるんだよ。けっこう美味しい料理を出すんだよ」 「だからって」 「そいつも魔法学校出身でね。でも、魔法よりも料理のほうがやりたくなっちゃってねぇ」  エリィさんは「さぁ、行くぞ~」と楽しそうに言って歩き出した。

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