71 / 160

第71話 襲撃者(10)

 こんなビジネス街みたいなところに?、と思っていたけれど、意外にも数分いったところでガラッと街並みが変わった。後ろを振り向けば通り過ぎてきた高い建物が立ち並んでいるのに、進もうとしているほうは少し古ぼけた感じの小さな家々が広がる住宅街。 「確かこの辺のはずなんだけどなぁ」  キョロキョロと周囲を見渡していたエリィさんは、ある建物を見つけるとそこに一直線に歩き出した。少しくすんだ赤いレンガ造りの三階建てのその建物は周囲の家々から、頭一つ飛び出していた。エリィさんの歩くスピードはレヴィたちには普通なのかもしれないけれど、僕は完全に置いて行かれてしまう。それに気づいたレヴィが立ち止まり、僕を待ってくれた。 「すまん」 「いいえ、僕のほうこそ」  少し息があがってしまった僕はレヴィに追いつくと、彼の顔を見上げる。  今までも何度も僕より大きいレヴィを見上げてきた。人の姿の時のレヴィは、男の僕から見てもかっこよくて、周囲の人の視線を簡単に集める人だった。だけど、獣人の姿のレヴィをマジマジと見上げるのは初めて。日の光のせいか、白銀の毛並みがとても輝いていて、いつにも増して神々しく見える。今日は今まで以上にかっこよく見えて、思わず見惚れてしまう。 「どうかしたか?」  僕はどうもレヴィを見つめすぎてたらしい。不思議そうな顔で見下ろされてしまった。僕のほうは、改めて青い瞳の狼の顔の美しさに気づかされて、反応が遅れてしまう。 「な、なんでもないですっ」  僕はせっかく待ってくれていたレヴィを追い越して、慌てて小走りにエリィさんたちを追いかけた。きっと呆れられたかもしれない。でも、僕はなぜかとても恥ずかしかったのだ。ただ見惚れていただけでなく、胸がドキドキしてきたのだ。  この状態が、自分でもよくわからないくて、逃げ出していた。 「ノア、こっちだよ」  エリィさんはすでに店の中に入っていて、代わりにエミールがドアのところから身体を出して僕を呼んだ。何か煮込んでいるのか、いい香りが中に入る前から漂ってくる。僕はその香りに誘われて、エミールの後ろから覗き込んだ。  中は、建物の外観を裏切らず、とてもこじんまりとしたアットホームな感じの店内になっていた。エリィさんは、白いコックさんが着る服を着た、エリィさんの身体の半分くらいしかない猫系の獣人と何やら楽し気に話をしている。  店内は、近所の人たちなのだろうか、いろんな獣人たちが所狭しと座り、美味しそうな料理を食べている。  きゅるきゅるきゅる~  僕のお腹が盛大に鳴った。そのとたん、エミールといつの間にか追いついて僕の後ろに立っていたレヴィに見下ろされた。もう、恥ずかしくて死にそう。 「ククク、さぁ、早いところ飯にしよう」  僕の肩に手を置いたレヴィが、耳元で優しく話しかける。そのとたん、僕の背中がゾクッとして、再びドキドキしてきた。

ともだちにシェアしよう!