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第72話 襲撃者(11)
僕の挙動がおかしいことになどレヴィは気づいていないようで、エリィさんたちのほうに向かってテーブルの間を抜けながら歩いていく。僕も後からついていくけれど、この胸の動悸が落ち着かないし、この状況が理解できないしで、顔をしかめてしまっていた。
「ノア、どうした?調子悪い?」
様子がおかしいのを先に気づいたのはエミールで、心配そうに見下ろしてきた。エミールだってレヴィと同じ狼で、体格も同じくらいだし、漆黒の毛並みは艶やかだし、とても美しいと思う。なのにエミールには、あんなドキドキはしない。その違いがわからなくて、思わず、ジッとエミールを見つめていると、首を傾げながらエミールも心配そうに見つめ返してくる。
「コラッ、お前ら見つめあうな!」
僕たちの前にいたはずのレヴィが、慌てたように戻ってきて僕の目を大きな手で隠した。
「み、見つめあってなんかっ」
「何、ヤキモチやいてんだよ」
僕の声に被せるようにエミールの楽しそうな声が聞こえる。
「妬くだろ、普通にっ」
「ったく、余裕ねぇなぁ、レヴィは」
グルルルルと、威嚇するように喉をならしているレヴィが僕の身体を抱きしめてきた。なんだろう、この喉からの振動が心地よく身体にしみこんでくる感じ。抱きしめられた安心感とともに、再び胸がドキドキしてきた。そしてなぜだか僕の身体が熱くなってくる。
おかしい、おかしい、おかしい!?
「ほらほら、じゃれついてないで。飯早いとこ食わないと、電車に乗り遅れるぞ」
エリィさんの声に、僕はレヴィの手からなんとか片目をのぞかせた。するとすでに僕たち用のテーブルは用意されていて、食事まで出ていた。そのうえエリィさんが座りながら、料理まで食べ始めている。エミールも椅子に座ってパンに手を伸ばしてる。
「え!?いつの間に!?」
レヴィに抱えられたまま、僕が驚いて声をあげると、
「すまんね。うちは、お昼時はメニューは一つしか出さないんだよ」
僕とさほど背丈の変わらない猫系の獣人が話しかけてきた。あの黒豹のような獰猛な感じではなく、とても優美な感じのグレーの猫系。つぶらな瞳はキラキラとグリーンに輝いている。そして微かにスパイシーな匂いを身体から発しているように感じた。
「さぁ、時間がないんだろう?早く食べなさい」
にっこり笑ったかと思ったら、店の奥、たぶんキッチンがある場所のほうに戻っていった。
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