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第73話 襲撃者(12)

「随分と、綺麗な猫さんですね」  思わずそう呟く。そして、とてもいい匂いをさせる獣人だとも思った。 「ん?そうか?俺はお前の半獣人の姿のほうがキレイだと思うぞ」  椅子に座りながらそう言うレヴィ。そんな子供の頃の姿のことを言われても、と、若干照れながら何も言い返せずに、僕はレヴィがひいてくれた椅子に腰を下ろした。  目の前に並ぶ料理は、大きなお皿に盛られたトマトベースの鶏肉のスープに、山盛りのポテトサラダ。固めのパンも大きな皿に山積みになっている。僕たちの手は自然とスプーンを手に取り、口に運ぶ。美味しい!スプーンが止まらない。 「あいつを見かけで判断してはダメですよ。ああ見えて、私の次に優秀な魔法使いでしたから」 「まるで自分が一番だったみたいな言い方だな」  偉そうに言っているエリィさんに、呆れながらつっこむエミール。 「一番でなければ、王室直属の魔法使いにはなれませんから」  すました顔で言い放つエリィさん。 「そうですよ、あの当時は私のはるか上にエリィくんはいましたから」  音もなく僕たちの間に立って、もうデザートの小さなプリンを持ってきていた。僕はまだスープすら飲み終えていないのに、と思ったら、レヴィたちはすでに口元すら吹き終えて、皿はすっからかんになっている。 「は、早っ!?」  一人だけまだ食べ物が残っている僕は、慌てて食べようとしたけれど、うまくのみこめずむせてしまった。 「慌てなくていいから」  隣に座っていたレヴィがテーブルに置いていた白いナプキンで僕の口元を抑える。優しい瞳で見つめられて、恥ずかしくなる。せっかく落ち着いてた胸の動悸が、またドキドキしだしてくる。 「だ、大丈夫ですっ」  レヴィからナプキンを奪うと、自分でもう一度唇を拭った。 「ヤオル、大変美味しかったですよ」 「エリィ、君に褒められるのが僕は一番うれしいよ」  この二人の雰囲気はなんなのだろうか。とても微笑ましいと同時に、見ているほうがどこか恥ずかしくなる雰囲気を醸し出している。 「滅多に、君の料理は食べられないからね。今回だって、何年振りだい?」 「そうだな……この店を開いた直後に来てくれたのだから、三年ぶりかな」 「魔法学校を卒業して、私はその上の魔法大学院に進んだけれど、ヤオルは料理学校に進んでしまってね」  とても残念そうな顔でヤオルさんを見つめるエリィさん。この二人はきっと素敵なライバル関係にあったんじゃないかと思えるくらい、互いに対する尊敬の念があふれている姿に、僕は見惚れてしまっていた。

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