74 / 160
第74話 襲撃者(13)
「ほら、ノア、ぼうっと見てないで、早いところ食べてしまえ。もう、あまり時間はないぞ」
慌てなくていい、と言ってたレヴィが、今度は少し不機嫌そうに急げと言い出した。矛盾した言葉に困惑しながらも、実際、僕しか食べていない状況だったから、最後のデザートはゆっくり味わう余裕もなく、大きく口を開けて放り込むしかなかった。
「そろそろ出ないと間に合わないか」
エミールが店の壁にかかっていた古くて大きな時計を見上げた。電車の時間まで、残り十分あるか、ないか。この店まで来るまでの時間を考えたら、僕の足じゃ到底間に合わない。
「ヤオル、請求は王室のほうにしてくれ」
「わかってる。二割増しくらいで請求しとくよ」
楽し気に話をしているエリィさんとヤオルさんを残して、「ごちそうさまでした!」と声をかけながら僕たちは店を出た。
「よし、エミール、先に行って切符買っといてくれ。俺はノアを背負って追いかける」
「ああ」
返事をしたかと思ったら、もう、エミールの姿は見えない。あまりの素早さに呆然としていると、レヴィが背中を向けて目の前にしゃがんだ。
「ほら、背中に乗れ」
「で、でも」
「なんだ、背負われるのは嫌か」
子供みたいで恥ずかしい、と思ってしまったのは事実。踏ん切りがつかずにいると、背後からエリィさんとヤオルさんが現れた。
「だったら、お姫様抱っこしたらどうですか。レヴィ」
「ノアくんくらいなら、余裕じゃないですか?レヴィくん」
楽し気に話す二人に、ニヤリと笑って答えるレヴィ。
「まぁな。じゃあ、抱えようか?」
そう言って立ち上がり、僕を抱えようとするから、慌ててレヴィの背中に飛びついた。
「お、お願いしますっ!」
クスクスと楽し気に笑う三人。完全にバカにされてる。
「わ、笑ってないで、早くエミールの後を追わないと」
「はいはい。じゃあ、ヤオルさん、ごちそうさまでした」
「ええ、また食べに来てくださいね」
優しく微笑みながら手をふるヤオルさんに、僕は小さく頭を下げると、レヴィの太い首に回した手をぎゅっと力をこめて目をつぶる。
「とばすから、ちゃんと掴まってろよ」
「は、はいっ」
返事をしたと同時に、いきなり、ものすごい風圧を感じた。振り落とされるかもっ!? と焦りながら、レヴィに必死に抱き着く。すると、クツクツとレヴィの笑ってるのが振動で伝わってくる。僕にしたら全然笑えないのに、レヴィはまるでそれを楽しんでいるようで、なんだかすごく悔しく感じた。
ともだちにシェアしよう!