75 / 160
第75話 襲撃者(14)
時は少しばかり遡る。
ヤオルの店にエミールたちが着いたころ、店の中にいたエリィとヤオルは、にこやかな笑顔を交わしながらも、少しばかり物騒な話をしていた。
「ヤオル、覚えているかい?ザイル・マフのことを」
「忘れるわけがないだろう。あいつのお陰で、どれほどの屈辱を覚えたことか」
「まぁ、わかる先生方にはわかってたから」
「それでも、わからない奴らのほうが多かった」
学生時代、学校内でも一位、二位を競いあっていたのは、エリィとヤオル。その次あたりに、ザイル・マフがついていた。やたらと二人に余計な手出しをしては、逆にやりこめられることも多かったが、いくつかは、彼らのプライドに傷をつけるようなこともあったらしい。
「今回のノアの件に、ハザール家が関わってきているらしい」
「……」
「ハザール家といえば、マフ一族だろ」
マフ一族は、ハザール家に仕える一族として有名で、それは魔術師から暗殺者までと幅広く関わっているのは、公然の秘密。
「夕べ、ノアが襲われてね。犯人は捕まえたんだが」
チラリと、ちょうど店の中に入ってきたノアとレヴィに視線を向ける。
「夜中に犯人は連れ去られたんだが、その時に、あからさまに残していったのさ。自分の足跡を」
「フッ、あいつらしいな。敵に誰が相手なのか知らせるとか。相変わらず自信過剰なことで」
呆れたように言うヤオルに、エリィは苦笑いをする。
「とりあえず、私はノアのそばから離れられないんだ。ヤオル、お前のほうで調べられるだけ、調べてもらえないか」
「何をだい」
「ザイル・マフの弱点……とでもいえばいいかな」
「弱点ねぇ……そんなのがあったなら、学生時代に使ってるよ」
「そう言わずに。ノアの行動にこれ以上、ちょっかい出されたくないからね」
レヴィとノアがじゃれ合っている姿を微笑ましそうに見つめるエリィ。
「あの子がそうなのかい」
「ああ。ずっと探してきて、ようやくレヴィが手に入れようとしているのだ」
「……未来の国母か」
「……そうなってくれればいいんだがね」
二人が心配そうな顔で見つめていたことは、レヴィもノアも気づかなかった。
ともだちにシェアしよう!