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第76話 襲撃者(15)
電車のボックス席に座って外を見る僕。同じボックス席に座るレヴィたちは息も乱れていない。獣人の体力というか身体能力の凄さを目の前で実感する。僕だったら当然間に合いもしないし、そもそも心臓すら破裂してるかもしれない。
「ここからどれくらいで着く?」
レヴィがエミールに問いかける。
「そうだな、二時間もかからず着くんじゃないか」
「そこで準備をしてからとなると、いったん泊まるところを考えないといけないかもな」
「それに、ムハーズルのじいさんとも出会えれば、出会いたいんですけどね」
そういえば、そんな人が僕たちに会いに来てくれるって言ってたっけ。どんな人なんだろうな、と思いつつ、僕は電車の心地いい振動に眠気を誘われて、いつの間にかに眠りに落ちてしまった。
目が覚めたのは、目的の駅に着く直前。レヴィが僕のことを横抱きに抱きかかえようとしてるのに気づいた。
「え?な、何?」
「あ、起きたか。そろそろ着くから、降りる準備を始めてたんだ」
「いや、だったら、僕のこと普通に起こしてくれれば」
「気持ちよさそうに寝てたから」
「で、でも、僕、歩けますから」
「ああ、でも、俺が抱きかかえたい」
「え」
僕の反論は完全に相手にされておらず、あわあわしている間に駅についてしまい、抱きかかえられたまま電車から降りることになった。
……ホームに降り立った僕たちを見る周囲の視線が痛い。
たぶん、獣人でない僕が珍しいというのもあるのだろうけれど、こんな僕を抱えているレヴィを見ている人が多い。レヴィの肩越しにこっそりと周囲を見渡すと、やっぱり、レヴィを見ている気がする。
「あ、あの……」
見知らぬ獣人の女性と思われる人たちが、おずおずと声をかけてきた。それにチラリと視線をやるレヴィ。しかし、返事はしない。
「もしかして、レヴィ皇太子様では、ございませんか」
僕からすると表情のわかりにくい獣人だけど、そんな僕でもわかる。皆、少しばかり恥ずかしそうにレヴィを見ている。僕はそっと目の前にあるレヴィの顔を見つめた。人間の姿であれだけ格好いいのだもの、獣人でもきっと格好よくて人気があるのかもしれない。
「そうだが、君たち、近寄るのは遠慮してもらえるか」
女性たちのとレヴィの間にエミールが立ちふさがる。その空気が急にピンと張りつめたようなものに変わる。エミール自身から放たれるオーラなのか、一気に気温が数度落ちたんじゃないか、と思うほどに、近寄るな、というオーラが周囲を覆う。そのせいか、彼女たちは怯えたように数歩後退した。
「レヴィ、ここは人が多すぎます。いったん、ここから離れましょう」
そう言って、エリィはブツブツと何か呪文を唱えると、僕たちを見ている人たちに向かって手を振り上げた。すると、驚いたことに、僕たちに向けられてた視線が急になくなり、それは目の前の女性たちも同様で、皆、三々五々に離れていった。
「え?何が起きたの?すごい……」
僕は驚きながらエリィさんを見つめると、レヴィがフンッ、と面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「ここ数分の記憶を消して、私たち自身も見えないように魔法をかけたのです。まぁ、大勢ということもあって、短時間だけです。すぐに思い出すでしょうけど」
「あれくらい、俺でもできる」
「はいはい、お前の力はわかってるよ。それより、さっさと行くぞ」
苦笑いしながらエミールに背を押されてホームから離れるレヴィと僕。内心、いつまで抱えられてないといけないんだろう、と思うけど、まだ周りに人が多すぎて顔を見られるのが恥ずかしくて、ついついレヴィの首に抱き着いてしまった。
すると、レヴィが嬉しそうに喉を鳴らすのが伝わってくる。
「何がおかしいんですか」
僕は少しばかり拗ねながらレヴィに聞く。
「いや、幸せだなぁ、と実感してただけ」
「も、もう、降りますっ」
なんだかレヴィの言葉が恥ずかしくて、僕は彼の腕の中から降りようともがくけれど、そんな僕を易々と抱えなおして、下ろそうとしてくれない。
「レヴィ!」
「ダメだ。もう少し人気が少なくなってから」
ニヤニヤ笑いながら言ってくるレヴィに、僕はこれ以上何も言えなくて、大人しく抱えられたまま、レヴィの首元に顔をうずめた。真っ赤になっている顔を隠すために。
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