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第79話 襲撃者(18)
「その代理の者とは」
訝し気にエリィが問うと、司教は眉間に皺をよせながら、思い出そうとした、しかし、なぜか名前も容貌も思い出せない。
「……おかしいですな。確かに代理の者がいたはずなのですが……私も年なのでしょうか」
司教は焦りながら、必死に思い出そうとしているが、どうにも霞がかったようで、まるで記憶に蓋をされてしまっているようだった。
「申し訳ございません。でも、確かにいたのです」
「……そのようですね。確かに誰かが来ていたようです」
天井を見上げながらエリィをそう呟いた。
「微かにですが、魔法の痕跡が残っています。確かにその代理の者は魔法を使う者だったようですね。まぁ、魔法商人の代理なんですから、おかしくはないでしょうけれど……」
「その者とはどんな話をしたのだ」
「いえ、たいしたことは。むこうから、レヴィ様たちがこちらに来るであろうということだけ。それを聞いて、その者をここに残して、お茶の用意をしに奥に行っておりました。用意ができたのでここに戻ってみると、もうその者はおりませんで、そこに、ちょうどレヴィ様たちが到着したのです」
「タイミングがよすぎる」
今まで何も言わないでいたエミールが呟いた。エミールの言葉に小さく頷いたレヴィ。
「エリィ、ムハーズルと直接連絡をとってみてくれ」
「はい」
エリィは上着のポケットの中から、手のひらに入るくらいの小さな手鏡のようなもの取り出した。
「それは?」
ローウェル司教は不思議そうにエリィの手元を見た。
「フフフ、残念ながらムハーズルは現代の通信機器なんていう洒落た物はもっていないんですよ。だから、これはこちらから一方的に相手を呼び出すための道具なんです。一応、これもムハーズルのおすすめグッズなんですけどね」
そう答えると、その手鏡に向かって低い声で小さく呪文を呟いた。すると、手鏡から天井に向かって映像が映し出された。
「っ!?」
「な、なんとっ!」
「これは、ひどい……」
手鏡が映し出している映像に、全員が顔をしかめた。
そこには、真っ赤な血で汚れた路地に横たわった、変わり果てたムハーズルの姿が映し出されていた。
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