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第82話 再会(1)

 暗い暗い、どこだかわからない狭いところで、僕は膝を抱えて泣いていた。母様が、じっと静かにしているようにと、男の子なら泣いてはいけないと、そう言ったから、僕はずっと待っていた。だけど、いつまでたっても母様は戻って来なかった。  我慢できなくて、そこから一人はいでてみたけれど、周囲の暗さが、まるで自分を押しつぶしにきているように感じて、僕は叫びそうになる。だけど、母様に言われたから、僕は両手で口を押えながら、暗闇の中を走りまわって、母様を探した。木の根や草に足を取られ、何度も何度も転んでしまう僕。いつもなら、誰かが抱き起してくれたのに、今は僕一人。  暗い暗い道を、泥だらけ、傷だらけになりながら、ただひたすら前に進んでいた僕に、急に白い明かりが横から照らされて、眩しさに立ちすくんでしまう。それと同時に、明かりを放っているものがすごい音を立てた。 「きゃぁぁぁっ!」  僕は、自分の叫び声で、飛び起きた。  あまりの恐怖で、荒い呼吸を落ち着かせることができない。 「どうしましたかっ」  ドアが急に開き、誰かが僕に声をかけてるけど、僕はその相手を見る余裕もなく、ただ、ハァハァと肩で息をしながら、目の前に置かれた自分の手を見つめた。 「ノア様、落ち着いてください。今、お医者様をお呼びしますから」  誰だかわからない声は、僕の背中を優しく撫でながら、近くに置かれている電話で誰かを呼び出していた。  僕は、ゴクリと唾を飲み込んで、徐々に自分の呼吸が落ち着いてきているのがわかった。そしてようやく、自分がどこだかわからない部屋のベッドで寝ていたということに気が付いた。 「……ここ、どこ?」  ポツリと呟く僕の声に、先ほどから電話をしている相手は気づいていない。ぼうっとしながら周囲を見回すと、ずいぶんと広くて豪華な部屋であることがわかった。壁はゴテゴテと派手な柄で、立派な調度品や、大きな絵画が壁に飾られている。そして、僕が寝ていたベッドに至っては、まるで物語のお姫様が寝るような天蓋つきのベッド。もしかして、僕はレヴィたちの家……というか、お城にでも連れてきてもらってるのかな?と一瞬思った。  だけど、『チャリン』という鎖の音と、自分の手首に付けられている鉄の手錠のようなもので繋がれているのに気が付いて、ここはそんな場所ではない、ということに気が付いた。だって、レヴィだったら、こんなことするわけない。僕は血の気がひいてきた。本当に、ここはどこなんだ? 「ああ、ノア様、大丈夫ですか?もう少しすれば、お医者様もいらっしゃいますからね」  そう言って僕に声をかけてきたのは、少し小柄な茶トラの猫の男の獣人だった。 「あ、あなたは、誰?」  小柄な相手のせいか、僕はそれほど恐怖心をもたずに、聞いてしまった。

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