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第84話 再会(3)
次に目が覚めた時、僕は同じベッドに横たわっていた。身体が少し怠い気がしたけど、僕は身体を起こして周囲を見渡した。眠りに落ちる前にいたのと同じ部屋。そして、同じように僕の手首につけられている手錠。チャリン、という鎖の音が、静かで薄暗い部屋に響いた。小さな窓から入ってくる日の光はオレンジ色をしていて、時刻がすでに夕方なのを物語っている。
手錠から繋がっている鎖の先は、ベッドの支柱の一つに括りつけられていた。僕は、この鎖の長さが知りたくて、ベッドから降りると、行けるところまで行こうと歩いてみた。
「えっ!?」
なんと、ほんの二、三歩で鎖がピンとはってしまった。これじゃ、ドアのところまでにも行かないし、たぶん、窓のところなんてもっての外だ。そもそも、高い位置に窓があるから、僕の身長では届きもしないけど。
僕は、支柱のところの鎖を見てみたけれど、なんか頑丈な鍵で繋げられていて、ガンガンと引っ張っても、高価そうなベッドの支柱のほうに傷がついただけだった。
「どうかしましたかっ」
ドアがいきなり開いて、ヨキさんが飛び込んできた。立ち上がって鎖を握っていた僕を見て、驚いていた。
「な、何をしてるんですかっ」
「え、いや、この鎖」
ヨキさんに鎖を見せたら、彼は苦虫を嚙み潰したような顔をした。
「それは私にはどうしようもできません」
そう言うと、僕のことを再びベッドに戻そうとする。身体の大きさは僕と大して変わらないのに、力の差を感じる。やっぱり獣人だからなのだろうか。
「もう眠くないです。それに、ここ、どこなんですか。なんで鎖なんか」
「ここは、ハザール家のお屋敷です。ご当主様のお客様として、貴方様を迎えさせていただきました。だから、こうして安全な場所にお守りしているのです」
「え?え?ハザール?」
僕が知っているハザールといえば、僕に散々嫌味を言い続けていじめてきてたキア・ハザールを思い出した。
「ハザールのご当主様が、あなた様を是非に、と望まれて、うちの者たちが見出したのです。まぁ、どれだけの時間がかかったことやら」
結局、ヨキさんの力には抗えずに、ベッドの中に押し戻されてしまう。
「ハ、ハザールって、キア・ハザールとは関係あるんですかっ」
「おや、ノア様はキア坊ちゃまとお知り合いでしたか」
「え」
「うちの坊ちゃまはそれはそれは天使のように美しくあらせられまして、ご当主様もご自慢の息子なんでございますよ」
嬉しそうに話すヨキさん。僕は、思わず顔を歪めてしまう。ご当主、というのは、キアの父親ってことか。それにしたって、なんで僕が、そのご当主様ってのに捕まえられているのだろうか。この状態は、絶対、お客様って格好じゃないと思うんだけど。
「ご当主様はお仕事が落ち着かれましたら、こちらにいらっしゃいますので、それまではこちらでお休みください」
そう言って掛布団の上から、ポンポンと僕の胸の上を叩く。まるで祖母がやってくれたように。
「も、もう眠くないんですけど」
「あら、そうですか。んー、それじゃあ、お腹、すいてますか?よろしければ、何かお食事をお持ちしましょう」
「ええっ」
そう言うと、僕の返事を待たずに、ヨキさんはさっさと部屋を出て行った。
閉まったドアを呆然と見つめながら、そういえばお腹すいてるかも、ということに気が付いた。あれから、どれくらい時間が経ったのか、全然わからない。そもそも、レヴィたちは、僕がここにいるのを知っているんだろうか。
「僕の荷物とかは、どこにあるんだろう」
不安になりながら、部屋を見渡すけれど、それらしい物は見当たらない。僕は、この訳の分からない状況に、頭がついていかず、涙が零れそうになった。
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