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第88話 再会(7)

 僕はナディル様に抱えられたまま、部屋に連れ戻された。ベッドに下ろされ横たえられた僕の腕は、再び手錠をはめられてしまった。そして身体のほうも、相変わらずピクリとも動かない。 「ヨキ、席をはずせ」 「はい」  ヨキさんは無表情に返事をすると、それ以上何も言わずに僕のそばから離れていった。  そして、ドアが静かに閉まる。  閉まる音がすると同時に、ベッドに横たわる僕の頬に、ナディル様の大きな手が触れた。そして、切なそうな声で、僕の目を見ながら語り掛けてきた。 「フローラ、私のフローラ……」  ……えっ!? 「フローラ……なぜだ……なぜ……」  ずっと目を外さずに、母様の名前を何度も何度も呼ぶナディル様。母様の知り合いなの?僕に母様の姿を重ねてるの?だけど『私のフローラ』って? 「もう、逃がさないよ。ジジイとババアには逃げられたが、こうして、フローラの宝を手に入れたのだ」  両手が僕の頬を挟み込む。ナディル様の紫の瞳の奥が、徐々に狂気をはらんだ深い紅色に変わっていく。 「再び、目覚めさせる。そして、今度こそ、私の物にして、後継ぎを再び産ませてみせる」  目覚めさせる?どういうこと?後継ぎを産ませる?自慢の息子のキア・ハザールは?  ナディル様の言葉に頭が混乱してくる。 「それにしても、さすがフローラ。自分の息子にここまでの魔法をかけるとは」  さっきまでの優しい顔とは違う、どこか悪意のある顔に寒気を覚える。そして、ナディル様の大きな口がニヤリと歪んだ。彼の纏う妖しい空気に、飲み込まれそうになる。 「もしフローラが目覚めないなら……お前に産ませるのも悪くないか……しかし、こいつは半分、犬……」  僕はその表情に、背筋がすうっと寒くなる恐怖を感じた。逃げたい、そう思ってるのに身体は彼にかけられた魔法のせいで身動きができない。瞳だけが大きく見開くしかない。 「まぁ、試してみるのも悪くないか」  そんな僕の唇に、彼の大きな口が開かれて、赤い舌で舐めようと顔を近づけてきた。さっきまでの大きな猫が舐めてくるようなのとは違う。捕食者の瞳。  嫌だっ!怖いっ!気持ち悪いっ!  僕の中の拒絶の感情が溢れそうになった瞬間。  バチバチバチッ!  僕の周りで白い火花が散った。

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