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第90話 再会(9)

 薄暗く長い廊下を、僕は必死に走った。  目の前に曲がる道があれば、そこを曲がり、下る階段があれば、そのまま駆け下りていく。その間、運のいいことに誰とも会わなかったことは奇跡だと思う。自分が今、この屋敷の中のどこにいるのか、全然想像できていなかったけれど、とにかく、ここから抜け出さなきゃ、という思いだけで、僕は目の前に現れる道から、逃げる道をあてどなく探し回った。  ――どれくらい彷徨ったのか。  気付くと窓のまったくない廊下を歩いていた。 「……ここ、どこ?」  微かに黴臭い匂いがしたことで、思わず足が止まる。天井の小さな明かりがポツンポツンと点いている。その廊下の突き当りに、古びたドアがあるのがわかる。そこが僕にとって出口になるのかわからない。だけど、僕は意を決して、そのドアに向かって歩き出した。  ドアの前に立つと、そのドアがとても古い木製のドアだというのがわかった。ノブを握り、ドアを開けようとしたが、押しても引いても、びくともしない。この先に進めなければ、僕は今来た廊下を戻らなければならない。今度は、誰かに見つかってしまうかもしれない。僕は必死になって、ドアをガチャガチャと力いっぱい動かしまくった。 「……開いて……お願い、開いて……」  ポロポロと目から涙を零しながら、何度もドアに体当たりした。それでもビクともしない。僕はドアの前にがっくりと跪いてしまった。このまま、あの人に捕まえられてしまうのだろうか。前にも進めず、後ろにも戻れない。僕はドアに額をあてて、泣き崩れてしまった。  すると。  急に、カチリとドアの鍵が開き、寄りかかっていた僕の体重で、勢いよくドアが開いた。   「えっ!?あっ!!うわぁぁぁっ!」  当然のごとく、僕は床に倒れこむわけで。思い切り額をぶつけてしまい、火花が散った。 「いったぁぁぁっ……?」  激突した額に手を当てて顔をあげた。  そこは、小さな部屋で小さなテーブルと椅子が置かれていた。黴臭さは、この部屋の中からしていたようだった。部屋が薄暗いのは、高い天井についている小さな電球しか点いていないせいだろう。  僕は立ち上がり、部屋を見渡した。一番奥のほうに大きな厚手のカーテンがかかっている。もしかして、その先には窓があって、もしかして、外に出られるんじゃ。僕は、慌ててそばに駆け寄り、思い切りカーテンをひいた。

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