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第93話 再会(12)

 僕はおじいちゃんの言葉の通り、母様のベッドのそばまで下がった。横たわる母様の顔を見下ろし、どうしたら母様を連れだせるんだろう?と考えていると、背後からガシャン!とガラスの割れる大きな音がした。  振り向くとカーテンが風でたなびいている。 『ノア、そこから出てきなさい』  僕は一瞬、自分の足を見た。パジャマの下は裸足。カーテンの下かはキラキラと光っている散らばったガラスの破片が見えている。 『急げっ。あヤツの部下どもが、今の音で集まってしまう』  悩んでる暇はない。僕はもう一度ベッドに横たわる母様に振り返った。 「母様、また来るからね、きっと、来るからね」  僕は痛みを堪えながら、ガラスの破片を踏み、窓際に寄った。あの頑丈そうだった鉄格子は、まるで誰かが思い切り広げたようになっていて、おかげで僕でも鉄格子の間を抜けることが出来た。広いバルコニーに踏み出してみると、目の前に広がっていたのは、真っ暗な森?……そして。 「なんだよ、ここ……」  自分が捕らえられていた部屋から何階か降りてきたから、もう一階かな、とか考えたのは甘かった。  バルコニーの下を覗くと、地面など見えない。真っ暗な谷みたい。森までは、僕の脚力なんかじゃ飛び越せない幅があった。  谷底から吹き上げてくる風に、恐怖心が煽られる。おじいちゃんたちは、ここから僕をどうやって逃がそうというのだろう? 「ノアッ」  上のほうから、僕を呼ぶおじいちゃんの声が聞こえた。  見上げると、おじいちゃんと、おばあちゃん、二人が空飛ぶ箒に跨って、急降下してきた。 「おじいちゃんっ!?」 「手を伸ばせ!」  バルコニーの手すりの前に二人が並んで浮かんでる。  魔法学校に行く日に僕を見送ってくれた姿とは、まったく違っていて、すっかり痩せていて、そして当然のように魔法使いのようなマントを羽織り、それが吹きあがる風にバタバタとたなびいている。  久しぶりに見た二人の顔を見て、僕は、また泣きそうになった。 「早くしろっ」  おじいちゃんの鋭い声に、慌てて手を伸ばした。 「よしっ!」  体格的にそう大きくもないおじいちゃんが、どこにそんな力があったのか、僕を力いっぱい引き上げた。 「あなた、奴らが感づいたわ」 「くっ、とりあえず逃げるぞ」 「う、うんっ」  僕はおじいちゃんの腰にしっかり捕まって目を閉じた。  冷たい風がびゅうびゅうと僕たちの周りを流れていく。 「クソッ、しつこいな」  微かにおじいちゃんの苛立った声が聞こえた。と同時に、ガツンッと強い衝撃波が僕の身体に伝わってきた。 「お、おじいちゃんっ」 「大丈夫だ。あいつらの攻撃程度じゃ、わしらにはかすりもしないっ」 「か、かすってなくても、なんかすごいよっ」 「すまんな、さすがに反撃する余裕はないぞ」  バンバンと火花のようなものが、僕たちに向かっていくつも放たれているけれど、おじいちゃんが言うとおり、僕たち自身には直接は当たってはいない。 「あなた、私が少し散らしてくるから、例の場所に先に行っててくださいな」  片目を薄っすらあけると、おばあちゃんが並んで飛んでいた。今まで見たことがないくらい、真剣な顔で、すごくカッコいいって思った。 「気をつけろよ」 「フフフ、あなたこそ」  そして、キュインっと勢いよく箒を反転すると、後方に向かっていった。 「お、おばあちゃんっ!」 「大丈夫じゃ。ばあさんは、そう簡単にやられはせんよ」  そう言うと、より一層箒のスピードを上げて、どこかに向かって飛んで行った。

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