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第94話 再会(13)

 どれくらい飛んでいたのか。僕はおじいちゃんと一緒に、どこかの森の中の小さな山小屋の前に降り立った。周囲は真っ暗で、今にもお化けでも出てきそうなくらいで、小さくフクロウの鳴く声が聞こえてきたりする。怖くておじいちゃんのマントの端を掴んでいると、おじいちゃんは、優しく僕の肩を叩いた。 「大丈夫、ここは、わしらの隠れ家だ。わしらを守ってくれるモノはおっても、襲ってくるようなモノはおらん」  そう言うと、小屋の戸を開けて中に入っていった。僕はその言葉を信じて、ゆっくりと中に入った。  おじいちゃんが小さい声で何か呟くと、暖炉の火と、古びたテーブルの上に置かれていたランプの火が同時に点いた。 「……本当に、おじいちゃんたちは、魔法使いだったんだね」  おじいちゃんが箒を巧みに使いこなしてここまで逃げてきたというのに、今更、目の前で呪文で火を点けているのを見て実感している僕。 「ああ、そうだねぇ。お前が家にいる間は、けして使ってこなかったからね。ほら、ずっとそんな格好でいたんだ。寒かっただろう、早く、暖炉の前においで」  おじいちゃんが椅子をひいて暖炉の前に持っていくと、僕を座るように促した。僕が素直にその椅子に座ると、どこから持ってきたのか、大きな毛布を僕の身体に掛けてくれた。 「ばあさんも、もう、戻るだろう。お前は、ここで少し休んでなさい。私は、ちょっと周囲を見回ってくる」 「で、でも」 「大丈夫。すぐに戻るから。戻ったら、足のケガもみよう」  おじいちゃんの言葉で、自分の足の裏から流れた血が、床を汚していたことに気付く。そしてジンジンとした痛みも感じ始めた。  そんな僕の頭をポンポンと叩くと、おじいちゃんは小屋の外に出て行った。  窓は分厚いカーテンがかかっていて、外の様子は見えないけれど、カタカタと窓を揺らす風の音と、遠くから狼の遠吠えのようなものが聞こえてきた。 ――狼。  それを思った途端、レヴィの顔を思い出した。今までは、自分のことで精一杯で、すっかりレヴィやエミール、エリィさんのことを忘れていた。僕が急にいなくなって、彼らはどうしただろうか。それに、ポップンは?  再び、狼の遠吠えが聞こえてきた。今度は、少しだけ近くなった。  その遠吠えを聞いて、僕は無性にレヴィに会いたくなった。 「レヴィ……」  僕は彼の名前を呟きながら、毛布を抱きしめた。そして、レヴィにギュッと抱きしめて欲しいと、思ってしまった。それが、恋愛としての感情なのか、自分でもあやふやだけれど、レヴィに抱きしめてもらうと、ドキドキしながらも、とても安心したのを思い出した。   「ただいま」  ドアが急に開いたとともに、おばあちゃんの声がした。僕は慌てて振り向くと、そこには、少しばかり顔に煤をつけたおばあちゃんと、ドアをしめようとしていたおじいちゃんがいた。 「おばあちゃん!」  毛布をその場に落として立ち上がり、足を引きずりながらおばあちゃんに抱き着いた。 「おやおや、本当に、こんなに大きくなったっていうのに、泣き虫だねぇ」  よしよし、とおばあちゃんに背中を撫でられ、ポロポロと涙をこぼしながら、気が付いてしまった。おばあちゃんが、僕の腕の中にいるということを。以前は、僕の方が抱きしめられて、おばあちゃんの顔を見上げてたのに、今では、僕の方が見下ろしている。 「本当に、身体はでかくなったのに」  おじいちゃんは、僕の目線と同じくらいに目があった。そして三日月のように細めた目をして微笑んだ。 「ぼ、僕、これでも小さいほうだよ」  涙を拭いながら、二人に微笑みかえす。 「ほほぉ、まったく、最近の子供は発育だけはいいからのぉ」 「フフフ、ノアも、もう少し大きくなるのかしらねぇ」  拭っても拭っても零れる涙に、おばあちゃんまでもらい泣きしながら、僕の頬をなでてくれた。

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