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第95話 再会(14)

 僕は、時間を忘れて話をした。  魔法省のフルブライトさんから、おじいちゃんたちを探すように言われて旅に出たこと。いろんな人に出会ったこと。レヴィたちに助けられて途中までこれたこと。  その間におばあちゃんが、足の裏の傷の手当をして、温かいミルクティをいれてくれた。古びたマグを三つ、テーブルの上に置く。僕は一つだけ取り、両手で持つと、ふぅふぅと息を吹きかけた。まだ少し熱い。僕はマグを膝の上に置いた。  そしてミルクティを見つめながら呟いた。 「僕、人間じゃなかったんだね」  おじいちゃんと、おばあちゃんは、僕のこの言葉に、ビクリと身体を震わせた。 「半獣人って言うんでしょ?」  おじいちゃんたちが、どんな顔で僕を見ているのか、とても怖くて目を向けられなかった。 「それに、僕、お父様が……お父様が、死んだ日のことも思い出したんだ……」 「!?」  二人が僕のほうに視線を向けたのはわかった。だけど、やっぱり、二人の方を見ることができない。 「お父様が、僕と母さまを逃がそうとして……殺されたの……」  せっかく止まっていた涙が、再びポロポロと零れていく。 「ノアッ」  おばあちゃんが僕のことを強く抱きしめた。おじいちゃんも、僕のそばに立つと、頭をゆっくりと撫でてくれた。 「……フローラは、わしらに何も言わずに、魔法学校を卒業したと同時に、獣人の国へと駆け落ちしたのだよ」  おじいちゃんは立ったまま、寂しそうに話を始めた。 「恋人がいる、と、ばあさんには話をしてたらしいんだがな。相手が獣人だと聞いて、わしらは反対したんだよ」 「な、なんで?」  僕の問いに、おじいちゃんは中々答えてはくれなかった。それでも、僕はおじいちゃんが話してくれるのをジッと待ち続けた。僕の必死な視線に根負けしたのか、おじいちゃんは大きくため息をつくと、ゆっくりと話し出した。 「……獣人と人の間に生まれる半獣人。それは普通の者同士だったら、特に大きな問題はない。しかし、魔力のある獣人と魔力のある人間、この組み合わせでは、無事に生まれてくる確率が、あまり高くはないのだよ。それも、フローラのように能力の高い魔法使いと、魔力のある獣人である場合、死産か、もしくは身体のどこかに不具合のある者が産まれる可能性のほうが高い。先々、そんな苦労するような相手とだなんて、親からしてみたら、反対するしかないだろう」  最後には、おじいちゃんは苦々しく、そう言った。 「で、でも、僕はちゃんと生まれてきたよ」  僕はおじいちゃんと、おばあちゃんに顔を向けた。二人は、とても優しく微笑むと、二人ともが僕を毛布ごと抱きしめた。 「神に感謝しなくてはな。お前が無事に生まれてきたことに。そして、何より、無事に私らの元にやってきてくれたことに」 「そうですね……」 「おじいちゃん、おばあちゃん……」  外の風が一段と強くなったのか。窓のあたりがガタガタと大きな音がする。  不意におじいちゃんが、厳しい顔つきで僕から離れていった。 「あなた」 「ああ、まさか、ここが見つかるとはな」 「え?な、なに?」  おばあちゃんにしがみつきながら、僕はおじいちゃんの背中を見つめる。  窓際によって、カーテンを引いて外を見るおじいちゃん。 「狼たちが吠えない……ハザール家の者たちじゃないのか……?」  ジッと窓の外を見据えているおじいちゃんの目が、青白く光った。

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