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第96話 再会(15)
ワンワンワン!
突然、外から微かに犬の鳴き声が聞こえてきた。
「え?犬?」
「こんなところに犬なんかいたかしら」
「いや、狼たちがいるから、犬など近寄って来ないはずだが」
鳴き声は段々と近づいてきて、ついには小屋の入口の前で、酷くなった上に、ドアをガリガリとかきむしっているようだった。あまりにも必死に鳴き続けるので、僕は心配になった。
「お、おじいちゃん」
「ふぅむ」
おじいちゃんは、難しい顔をしながら外の様子を見ていたけれど、急に怖い顔に変わった。その瞬間。
ドンッ!
激しい音とともに、ドアがいきなり開いた。
「ノアッ!いるのかっ!」
怒りの込められたその声は、レヴィの声とともに、レヴィ、エミール、エリィさんと、大柄な三人の獣人が駆け込んできた。
「レヴィ!」
僕は彼の名を叫ぶとともに、レヴィの胸の中に飛び込んだ。
「ノアッ」
レヴィは僕の身体を受け止めると、力強く僕を抱きしめた。ああ、レヴィの匂いだ。僕は、この匂いに安心を覚え、思わず涙が零れた。
「ノア、こいつらが、もしかして」
おじいちゃんが、困惑気味に僕に話しかけてきたので、慌てて僕は涙を拭って、振り返った。
「う、うん、この人たちが魔法学校の先輩で……」
「婚約者のレヴィ・シュライデンだ。あんたは……もしかして……イテッ」
「おいっ、レヴィ、『あんた』だなんて、恐れ多いぞっ」
エリィさんが焦りながら、レヴィの頭を叩いた。
「ナレザール様、失礼しました。私、シュライデン王家に仕えるエリィ・アイサーと申します」
深々と頭を下げるエリィさんに、僕の方が驚いて見ていると、おじいちゃんは、今までみたことがないくらい威厳のある表情で、エリィさんに頷いた。
「ヒデュナ・アイサーの息子か」
「まぁ、まぁ、ヒデュナに比べると、随分と大柄な子ねぇ」
おばあちゃんは、懐かしそうな顔でエリィさんを見ている。
「ヒデュナって?」
こっそりレヴィに聞くと「うちの魔法使いたちを束ねる長だ。エリィの親父」と、ムスッとしながら小さい声で教えてくれた。
「そちらは?」
おばあちゃんが優し気にレヴィの隣に立っていたエミールに声をかけた。
「エミール・シュライデン。レヴィのいとこにあたります」
僕が向けた視線にエミールは優しく微笑んだ。そして、レヴィたちの足元で、嬉しそうに尻尾を振っていたのは、やっぱり、ポップンだった。
「ポップン!」
僕はレヴィの腕の中から離れて、ポップンを抱きしめた。すると、ポップンはベロベロと僕の顔を舐めまくった。
「うわっ、ちょ、ちょっと!」
その勢いで、ポップンに押し倒されてしまう僕。
「こら、ポップン!それをしていいのは、俺だけだ!」
レヴィが怒りながら、僕を抱き上げると、再びギュウッと抱きしめてきた。
「……レヴィくんと言ったな。さっきから、意味がわからんのだが、『婚約者』とはなんのことだ」
おじいちゃんの声は、とても静かだったけれど、僕にはその中に怒りのようなものが含まれるのを感じ取った。それはレヴィたちも同じだったのか、急に三人ともがおじいちゃんに視線を向けた。
「言葉の通りだ。ノアは、シュライデン王家の皇太子の俺の婚約者だ」
そう言い切ったレヴィに、おじいちゃんと、おばあちゃんは目を見張った。僕は、おずおずと二人に目を向けた。
「おじいちゃん、おばあちゃん、な、なんか、そうみたいなんだ」
「そうみたい、だって?」
「だ、だって、ノアは男の子でしょうが」
「う、うん、でも、この国では半獣人は、性別関係なく結婚できるみたい……」
「うっ!」
「まさかっ!」
二人が顔を真っ青にしているのを見て、僕は申し訳ない気持ちになってきた。
「ノアを責めるな」
レヴィが強い声でそう言いながら、僕をもう一度強く抱きしめた。
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