97 / 160

第97話 再会(16)

 狭い小屋の中に、大柄な三人がいるというだけで圧迫感が半端ない。その上、レヴィからは威嚇するような空気が感じられるし、おじいちゃんはおじいちゃんで、レヴィを睨み返してる。  僕たちの間の空気が重いのを感じ取ったのか、ポップンが悲しそうにクゥ~ンと鳴いた。そのおかげか、まずはエリィさんが軽くコホンと咳をすると、おじいちゃんたちのほうに声をかけた。 「こんな状況でなんなのですが、我々にお茶をいただくことは可能でしょうか」  その一言で、おばあちゃんは、ハッとして「まぁまぁ、ほんと、お茶も出さないで」と、慌てて狭いキッチンのようなところに向かった。  僕はレヴィの服の端を引っ張った。それでようやくレヴィの視線が僕に向いた。 「とりあえず、座ろう?」  レヴィは少しだけ表情を緩めると、僕を腕の中から放した。 「おじいちゃんも、座って、落ち着いて話そう?」  渋々というのが、目に見えてわかる。おじいちゃんは、小さくブツブツ言いながら、テーブルの向かい側に座った。 「あっ!」  僕が『座ろう?』と言ったのに、よくよく考えてみると、この小屋には、二人分の椅子しかなかった。 「ご、ごめんなさい、椅子……」  僕が思わずそう言うと、なんてことはないような顔で、レヴィたちは、指先をパチンと音を立てると、自分たちが座る椅子を魔法で作り出した。その現れた椅子のタイプは、それぞれの性格を表しているようで面白い。  エミールの椅子は、頑丈そうだけどシンプルなスチール製の椅子、エリィさんのはアンティークな感じの華奢な木製の椅子。そしてレヴィは……王様が座りそうな……玉座ってこんな感じなんじゃないかっていう椅子。それぞれの椅子が現れたことで、狭い部屋の中がより一層、狭くなった気がする。いや、確実に狭い。 「……フン」  おじいちゃんは、そんなレヴィの椅子を一瞥すると、鼻を鳴らした。 「ほら、お茶、どうぞ」  おばあちゃんは、狭いテーブルの上に人数分のティーカップを置くと、空いていた椅子に座った。 「ほら、ノアも座んなさい」  そうは言うけど。もう椅子はないし、そんなスペースもない。 「いいよ。僕は立ってる」  僕は小さく微笑んで、目の前に置かれたティーカップに手を伸ばそうとした。 「いい匂いだね……えっ!?あ、うわっ!」  レヴィが僕を抱きかかえて自分の膝の上に座らせたと同時に、僕が立ってたところに、小さなかわいい椅子が現れた。 「チッ」  そう舌打ちしたのは、おじいちゃん。そんなことするの見たことがなかったから、驚いた。僕のために、椅子を出してくれたのは、おじいちゃんだったみたい。 「あ、ありがとう、おじいちゃん」  僕は嬉しくて、レヴィの膝の上から降りようとしたのに、レヴィが抱きかかえて下ろしてくれない。 「レ、レヴィ、僕、椅子に座るから」 「いいよ、俺の膝の上で」 「でも、おじいちゃんが」 「そうだよ、レヴィ、ノアは久しぶりにお二人に会えたんだ、座らせてやれよ」  エリィさんが諭すように言う。 「俺だって、心配したんだぞっ」  レヴィが今まで聞いたことがないくらい怖い声で、怒鳴った。 「レ、レヴィ」  僕は、レヴィの胸元に縋って、顔を見上げた。とても苦しそうな顔で、歯を食いしばっている。  「ホテルに戻った時、ポップンが倒れていて、殺されてるかと思ったよ。その上、ノアがいないのに気づいた時、俺たちがどんなに焦ったか……心配したかわかるかっ。」  ギュッと抱きしめられて、苦しくなる。 「レ、レヴィ、苦しい……」  パンパンとレヴィの二の腕を叩くと、ようやく腕を緩めてくれた。 「……ノア、俺たち、魔法商人のムハーズルに会いに行ったんだ。だけど、会えなかった……彼は……殺されてたんだ」  エミールの言葉に驚いて、思わず身体がビクッとした。 「殺された?」  レヴィの顔を見ると、苦しそうな顔で僕を見つめてる。 「ああ、それを知った後に、ノアの姿がなくなったんだ。俺たちが心配するのも当たり前だろう?だから、少しだけ、レヴィを甘えさせてやってよ」  僕はゆっくりとレヴィを抱きしめる。すると、そんな僕をレヴィは優しく抱きしめ返して、大きくため息をついた。 「本当に……無事でよかった……」  正直を言えば、僕の気持ち的には無事なことはないけれど、こうしてレヴィに抱きしめられてるだけで、すごく安心もしたのだった。

ともだちにシェアしよう!