98 / 160
第98話 再会(17)
「……ノア、なんだ、この臭い」
急にレヴィが不機嫌そうな声を出した。
「え?」
僕は身を起こすと、自分のパジャマの袖とか匂いを嗅いでみた。だけど、レヴィが言う臭いがわからない。
「クソッ、誰だ、ノアにこんな臭いをつけやがったのは!」
レヴィは突然怒り出すと、僕の首に舌を這わせた。その行動に、すぐ、ナディル様のことを思い出す。あの人も同じようなことを言ってた気がする。
「な、なにするのっ!や、やめてっ!」
「大人しくしてろっ!」
レヴィの大きな舌がベロベロと舐め回し、大きな手が僕を何度も撫でまわしてる。僕はそれがくすぐったくて思わず身をよじり、なんだか変な声が漏れそうになる。
「ゴホンッ」
おじいちゃんの咳に、思わずレヴィの腕の中でビクリとする。レヴィと僕はゆっくりと顔を向けると、不機嫌そうなおじいちゃんの顔があった。その顔つきに、つい、言い訳をしそうになる。
「あ、あのっ」
「……いい加減にせい」
相変わらず、不機嫌そうではあるけれど、おじいちゃんは紅茶を飲みながら、ジッと僕たちを睨みつけている。僕は恥ずかしくて、レヴィの胸に顔をうずめた。
「で、婚約、と言ったな」
「はい」
おじいちゃんは、やっぱり不機嫌そうに問いかける。エリィさんが僕とレヴィの代わりに説明を始めた。
僕の父様のこと、母様と僕が行方不明で、ずっと探していたこと。魔法学校で再会したこと。そして、僕が魔法省からおじいちゃんとおばあちゃんを探すように言われ旅立ったこと。
「魔法省だと?」
おじいちゃんが、眉間にあった皺を余計に深くした。
「うん、フルブライトさんっていう人に、探すように言われて。このポップンを渡されたんだ」
レヴィの足元に伏せた状態でいたポップンが、僕が名前を呼んだのに反応して顔を見上げた。
「今回は、ポップンのおかげで、ノアを見つけることが出来たんだよ」
エリィさんが、嬉しそうに微笑む。
「てっきり、魔法犬は持ち主というか飼い主にしか反応しないのかと思ったんだけど、レヴィとノアは従兄弟同士だからなのか、ノアを探すように言ってみたら、すぐに反応してね」
自分が褒められているのがわかるのか、身体を起こすとハァハァと息を吐きながら、僕の顔をジッと見つめてる。
「そうなんだ。すごいな、ポップン」
大きな尻尾をパタパタと振りながら、パジャマからのぞく僕の素足に鼻を摺り寄せた。
「く、くすぐったいよ」
そう言いながら足を引いた時、レヴィが僕の足ごと抱きかかえなおした。
「ポップン、ダメだ」
レヴィのキツイ声に、耳を下げて、再び床に伏せるポップン。
「レヴィ、何もそんなにキツク言わなくても」
「ダメだ。ノアは俺のだから」
今まで、僕の中のレヴィという存在は、身体も大きくて、とても強くて頭もよくて、すごく大人でカッコよくて……もう、僕からしたら、何でもできる憧れの存在に近かった。そんな彼が、今、僕のことを抱きかかえて、まるで子供みたいなことを言っている。その姿に僕の方がびっくりで、つい、エミールやエリィさんのほうに目をやると、二人ともが苦笑いをしている。
「とにかく、ポップンの能力は凄まじかったです。目が覚めてしばらくは、朦朧としていたようなのですが、ノアを探せ、とレヴィが命じた途端、我々のホテルから飛び出して。そのあとを追うのは、我々獣人じゃないと無理だったでしょうね。まったく、こんな魔法犬を使って、貴方方を探させようとする魔法省の考えがわかりませんよ」
「……それは、むしろ、僕が魔法が使えないからこそ、高性能なポップンを貸してくれたんじゃないかな……」
僕は小さい声でそう答えた。
「ノア……」
おじいちゃんとおばあちゃんが、とても辛そうな顔で、僕を見つめた。
ともだちにシェアしよう!