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第102話 奪還(3)
ゆったりとした朝食を終えると、おじいちゃんはさっそく魔法省に連絡を入れるために立ち上がった。
「え、あれで連絡をとるの?」
おじいちゃんは、リビングに掛けられている、古い彫刻を施された木製の額の大きな鏡に向かって歩み寄り、鏡の枠に添えられていた細い杖のようなものを手に取った。それを軽く鏡の前で振ると、まるで誰かそこにいるように話しかけ始めた。
「魔法省魔法管理部のフルブライトを頼む」
僕が普段聞く優しい声ではなく、ピリピリとした空気を纏っている声に、緊張でゾクッとしてしまう。そんな僕に気が付いたのか、レヴィが僕の頭を優しく撫で始めた。
「ナレザール・アシュレーだ。そう言えばわかるだろう」
『……!』
「フルブライトか。君が孫にこんなことをさせるとは、思いもしなかったよ」
おじいちゃんの冷ややかな声。僕たちからは鏡に映ってるのはおじいちゃんの怖い顔でしかないけれど、おじいちゃんには、フルブライトさんの姿が見えているんだろうか。微かにフルブライトさんの声が聞こえているようだけれど、僕には何を言っているのかまでは拾えない。
『……ッ。……!』
「だから言っただろう。私たちはもう隠遁生活に入ってるのだと。だから、何をしようが、君たち魔法省とは関係ない。とりあえず、生存確認は出来たのだから、もう孫のほうには関わらないでくれ」
『……!』
「それと、今回、孫を利用した時点で、我々の協力関係はなくなった。これの意味、君ならわかるだろう」
鏡の向こうからは何の返事も返ってこない。おじいちゃんは、何も言わずに再び杖を振ると、小さく息を吐いた。
「ナレザール様、協力関係とは……?」
エリィさんが、困惑気味におじいちゃんに声をかける。僕も気になっていたから、ジッとおじいちゃんの答えに聞き耳をたてる。
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