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第104話 奪還(5)
暫く、皆が考え込んでいる様子を、僕も見つめていたけれど、誰も、これ、という結論を出せずにいた。そんな中。
ウォォォン!
ウォォォォン!
小屋の外から、何匹もの狼が遠吠えを始めた。
「な、何!?」
突然のことに、僕は慌てて立ち上がると、自然とレヴィの身体にしがみついた。そんな僕をレヴィが強く抱きしめる。
「くそっ、もう、あいつらの手の者がやってきたのか……早すぎる……」
おじいちゃんが、苛立たしそうに呟くと、おばあちゃんに目配せをした。おばあちゃんは静かに立ち上がると、小屋の奥の方に向かった。レヴィたちはレヴィたちで顔を見合わせるその表情には、警戒心が現れてる。
「ここの狼たちは、この小屋半径三キロ以内に、猫系の獣人が近づいた際に鳴くように躾てある。例え、ハザール家の者ではなかったとしても同様だ。三キロ圏内では本気の獣人の身体能力では、数分もかからないだろうが」
「だから我々、狼系や犬では反応しなかったわけですね」
エリィさんが感心したように言いながらも、立ち上がり、窓際によって外の様子を伺っている。
「まだ、ここから見えるところまでは来ていないようです。ナレザール様、どうされますか」
「少しでも不安要素があるなら、この小屋は捨てる」
おじいちゃんの厳しい声とともに、おばあちゃんが再び戻ってくると、その手には小さなハンドバックが下げられていた。
「あなた、荷物はまとめてきましたし、あそこの入口のドアは開けてきました。いつでも行けますよ」
普通にどこかに出かけるようなのんびりとした口調のおばあちゃん。入口?どこの入口のこと?
「ノアたちも、荷物があるならまとめてきなさい。その間は、おじいちゃんと私とで、様子を見てるから」
おばあちゃんが不安そうな僕の頭を撫でながら、そう言うと、おじいちゃんとおばあちゃんは、エリィさんと入れ替わるように窓際に立ち、外の様子を伺い始めた。
僕たちは急いで自分たちの荷物を持ってくると、再びおじいちゃんたちのそばに立つ。
「まだ、大丈夫だ。ばあさん、こいつらを入口に連れてけ。わしも、すぐに追いつく」
おじいちゃんは、何かを感じたのか、再び、窓のほうを見る。僕のところからも窓の外が少しだけ見えた。大きな体の狼たちが小屋の周囲をウロウロしているのが見える。
「早く行けっ」
おばあちゃんは何も言わずに小屋の奥の方に行くのを、僕たちは追いかけた。この小屋が、おじいちゃんたちの魔法で、いろんな仕掛けが隠されてるのだろう、というのは、予想はしていた。
「さてと」
おばあちゃんたちの寝室の中にあった大きな姿見の前に立つと、おばあちゃんはその中を指さした。
「この鏡が別の避難場所に繋がってるの。とりあえず、貴方たちはこの中を通って、そこで少し待ってなさい。私はおじいちゃんに声をかけてきますからね」
それだけ言うと、トンとレヴィの背中を押した。本当に軽く押したようにしか見えなかったのに。
「う?えぇぇっ?」
「うぉっ!?」
レヴィの隣に立っていた僕まで、なぜか勢いよく、鏡の中に飛び込んでいた。
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