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第105話 奪還(6)

 ドシンッ、と勢いよく倒れこんだ場所は、あの小屋とはまた違った古い家のようだった。小屋のほうは明るい日差しが部屋の中に降り注いでいたのに、この部屋の窓はカーテンが閉められていて薄暗かった。そして、くすんだ古びた絨毯と、何か薬草のような匂いが部屋の中を充満している。 『おい、さっさと立てよ。俺たちが進めない』  鏡越しにエミールが苦笑いしながら言っている。レヴィは慌てもせずに立ち上がると、倒れこんでいた僕の肩を抱きかかえて、立ち上がらせてくれた。  エミールとエリィさんが、まるで水面のような鏡から身体を現わした。 「……すごいね」  こんな魔法の道具もあるのか、と思って目を見張った。 「この程度のものは、王宮にもあるよ。その昔、人間と獣人の間にあった戦争の時代に、よく利用されてたんだ。しかし、普通の家では、なかなか見ることが出来ないと思うよ」  エリィさんは鏡を興味深そうに撫でながら確かめている。人間と獣人の間の戦争なんて、二百年も前の話なのは歴史の授業で習っていた。そんな古い物がここにも?と、思うと、余計に驚いてしまう。 『ほら、あなたたち、どいて』  おばあちゃんの呆れたような声で、そこにおじいちゃんと二人が立っているのに気づき、僕たちは鏡から離れた。 「どっこいしょ」 『急げ、ばあさん、奴らがドアを開けようとしとる』 「ごめんなさいよ」  おばあちゃんが入ってくると、続いておじいちゃんの姿が現れた。 「少し離れろ」  厳しい声のおじいちゃんに、僕たちは数歩後ろに下がる。おじいちゃんは、小さな杖を取り出して、何か呪文を唱え始めた。と、同時に、向こうの小屋のドアが激しく壊された音とともに、鏡の前を複数の猫科の獣人たちが駆け抜けていく。その中の一人が、鏡の存在に気付き立ち止まった。そいつは僕たちの姿にも気づいて、大きく目を見開いた。  僕は怖くてレヴィの腕の中で、ギュッとしがみつく。 『いたぞっ!』  仲間に大きく声をかけると、そいつは鏡の方から、こちら側へと腕を伸ばそうとした。その瞬間。  ドン!  どこからか生じた、すごい勢いの火が鏡の向こう側を埋め尽くした。その火は、手を伸ばしかけた獣人を、あっという間に飲み込んだ。その迫力に、僕はゴクリと喉を鳴らしてその様子から目が離せなかった。  その威力の凄まじさのせいか、バリンッという音と共に鏡にひび割れが生じると、向こう側の様子は真っ暗になって見えなくなった。そしてしばらくすると、ただのひび割れた普通の鏡となってしまった。 「お、おじいちゃん」  僕はレヴィの腕の中から抜け出すと、おじいちゃんたちの傍に近寄った。 「怖がらせてすまんかったな」  おじいちゃんの手が僕の頭をポンポンと優しく叩く。そして、おばあちゃんが僕の身体をぎゅうっと抱きしめた。

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