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第106話 奪還(7)
新しい避難所は、僕たち全員が立っているだけで窮屈な、とても狭い部屋だった。天井からは薬草の匂いのもと、様々な乾燥した草が下げられていて、壁には多くの古い本で埋められている。窓際のテーブルの周りにも山積みになった本や、実験道具のようなもので溢れていた。
僕は、テーブルを周り込むとカーテンの隙間から外の様子をのぞいてみた。細い路地を挟んですぐ向かいに、古いレンガ造りの建物が立っている。あちら側の建物の部屋の窓は、煤けていて一度も開けられた様子も見られない。たぶんカーテンも閉め切られてるのだろう。
「ノア、カーテンをしめて」
おばあちゃんの厳しい声に、慌ててカーテンを閉めた。振り返ると、にっこりと笑っているおばあちゃん。
「ここは?」
エリィさんが、心配そうにおじいちゃんたちに尋ねた。
「……ここはハザール家の城のある城下町だ。その中でも古い建物の多い地区でな。まるで迷路ののような路地の奥のほうにある。わしらでも、ここに戻るには、魔法を使わないではなかなか辿り着けん」
おじいちゃんはひび割れた鏡を寂しそうに撫でると、ベロアのような布で覆って隠してしまった。
「しかし、あの小屋を、あいつらはよく見つけましたね」
訝し気に言うエミール。そうは言っても、レヴィたちも僕たちの居所をつきとられたわけだし。そう思って、不思議そうな顔をしていたら、エリィさんが苦笑いしながら、僕に言った。
「私たちはポップンがいてくれたから、見つけられたんだよ。しかし、あいつらの獣人としての探索する能力は我々狼系よりも劣る。それなのに、たいして時間もかからずにここまで追いつくなんて……まさか、ノアの着ていたパジャマとかに発信機でもついていたのでしょうか」
「あんな薄っぺらい物にか?それはないんじゃ」
レヴィが呆れたように言う。僕もそう思うし、僕はハザール家で逃げ回った時のことを思い出した。
「僕、逃げ出して母様の部屋に隠れてた時には見つけられなかったよ」
「……ということは、他に何があるんだ?」
みんなで頭を抱えて考えたけれど、理由は思いつかなかった。
「とりあえず、お茶でも飲んで、落ち着いてもう一度考えてみましょ」
おばあちゃんはそう言うと、おばあちゃんの背後にあった大きな木製のドアを押した。その先にあったのは、僕たちが逃げ込んだ部屋よりも大分広いリビングルームだった。そこにあった小さなテーブルに、おばあちゃんは、指先だけで僕たちが全員が座れるようなテーブルに変化させた。その上、ポットやティーカップまで置かれている。
魔法学校に来る前は、こんな風に魔法を操っている姿を見たことがなかった僕。それを目の前でいとも簡単に見せつけられて、僕の中では、おじいちゃんたちが見せる魔法使いの姿に驚くばかり。
「ほらほら、座って」
大人しく座った僕たちは、目の前に出された、淹れたてのように湯気のたつ紅茶に口をつけた。
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