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第109話 奪還(10)
結局、レヴィはその日のうちには戻って来なかった。
僕は窓際でまんじりともせずに、外を見続けていた。その様子をおじいちゃんたちは心配そうに見ていたけれど、僕を無理に寝かせようとはしなかった。
日が昇り、街の中を濃い霧が漂い、まるで雲海の中に飲み込まれたような外の景色に、目を奪われていると、玄関のドアが小さく軋む音が聞こえた。僕は慌てて部屋から飛び出した。
そこには足元に霧を纏わせながら、葉っぱや泥にまみれた姿のレヴィが立っていた。
「おかえりなさいっ」
僕はレヴィの無事な姿に、思わず涙が零れ、駆け寄り、抱き着いた。
「ああ、ただいま」
大きくため息をつきながら、僕を抱きしめ、匂いを嗅ぐレヴィ。彼の鼻先が僕の襟足をくすぐる。本来ならくすぐったくて身をよじりたいところなのに、僕はレヴィの腕の中に安心してしまい、抱きしめ返してしまう。
「よかった……無事に帰ってきてくれて……」
「これぐらい当たり前だ。俺の帰る場所は、お前の傍だけだからな」
そう言うと、僕の頬を優しく舐めた。
「レ、レヴィ!?」
「これくらい、役得があってもいいだろう?」
クスリと笑ったかと思ったら、僕を軽々と抱き上げた。
「ちょ、ちょっと!?」
「さすがに疲れた。一風呂浴びてから、少し休みたい」
目の前にあるレヴィの横顔は、目付きが少し疲れているように見えた。僕のために自ら動いてくれたレヴィ。思わず彼の首にしがみつき、頬にキスをした。
「ありがとう」
「……ああ」
僕はジッとレヴィの瞳を見つめると、なんだか胸がドキドキしはじめた。頬とはいえ、レヴィにキスしてしまったことが、今更ながらに、恥ずかしくなった。なのに、目が離せない。レヴィの蒼い瞳に吸い込まれそうになる。
「ノア……」
優しいレヴィの声に、僕は自然と唇が、レヴィのそれに吸い寄せられそうになる。
そして。
「ゴホゴホッ!」
突然聞こえた咳に、僕は一瞬で、自分がレヴィにキスしようとしてたことに気が付いて恥ずかしくなった。
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