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第111話 奪還(12)

 僕が起きだしたのは、お昼を過ぎた頃だった。  ベッドにはもう僕しかいなくて、レヴィはいなくなっていた。ベッドの上で、しばらくぼーっとしている僕を、おばあちゃんがドアを開けて声をかけてきた。 「ノア、起きたのかい」 「……うん」 「だったら、食事の用意が出来てるから、出てらっしゃい」 「うん……」  もぞもぞと着替え終えると部屋を出る。今までいた部屋のドアが、まるでカメレオンみたいに、壁と同じに変わって、まるで役目が終わったとでもいうように消えていく。  僕の目の前に起こっていることが、やっぱり不思議でならない。実際、狭そうな建物と思っていたのに、山小屋同様、隠し部屋のように部屋を出すおじいちゃんには驚くしかない。レヴィたちは、それが当然のような顔をしているけど。 「起きてきたか」  ダイニングには、おじいちゃんとおばあちゃんしかいなかった。 「レヴィたちは?」  椅子に座りながら、テーブルの上のパンに手を伸ばす。三人が三人ともいないと、不安になる。 「あいつらは、ハザールの様子を見に行ってる」 「えっ、大丈夫なの?」  手にしていたパンを落としそうになる。 「大丈夫だろう。向こうが、わしらとあいつらが繋がったとは、気づいていないだろうし」 「でも」 「そもそも、捕まるような下手をするような奴らでもなかろう」  おじいちゃんとおばあちゃんは余裕の表情で、コーヒーを飲み始めている。  言われてみれば、僕なんかと違って魔法だって優秀だし、肉体的にだって。それはわかっていても、心配になってしまうのは仕方がない。  僕は、彼らがいつ戻って来るのか気にしながらドアのあるほうをチラチラと意識しながら、パンを少しずつ齧る。おばあちゃんが焼いたパンは、甘くて美味しいはずなのに、全然味がわからない。思い切りパンを口の中に押し込んでいると、ドアが開く音がした。 「戻りました」  エリィさんの声に顔をあげると、エリィさんの後ろにレヴィとエミールの姿も見えて僕はホッとする。 「どうだったね」  おじいちゃんの鋭い声に、僕はビクッとした。 「ええ、案の定、ほとんどの私兵は出払っているようです」 「なら、今がチャンスか」  コーヒーカップをテーブルに置くとおじいちゃんが静かに立ち上がった。 「ばあさん、ノアと一緒に、ここで待っててくれんか」 「何を言ってるんですか」 「そうだよ、僕も行くよ!」  朝食を途中までしか食べ終えていないまま、僕はレヴィたちのそばに駆け寄ると、レヴィの服の裾を掴んだ。 「ノア……」  レヴィの大きな手が優しく僕の頭を撫でる。残される不安に、僕は押しつぶされそうになる。レヴィは身体を屈めると、僕の顔をジッと見つめた。 「悪いが連れていけない。理由は、お前を守り切る自信がないからだ」  僕はレヴィの真剣な言葉に、思わず身体が強張る。あのレヴィが、自信がない、なんていう言葉を使うなんて。 「おばあさん、申し訳ない。ノアを守ってください。例え、私兵がいなくても、ハザールの家に、どんな罠が待っているかわからない。だから、お願いだ。俺たちの帰りを待っててくれ」  そう言い切ると、レヴィが僕をギュッと抱きしめてくれた。僕は自然と涙が零れてきて、レヴィを抱きしめ返した。

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