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第112話 奪還(13)

***  レヴィたちは隠れ家を出ると、ナレザールは魔法の箒で、レヴィたち獣人は猛ダッシュでハザール邸へと急ぐ。屋敷の周辺は高い塀で囲われている。その塀の上は、槍の穂先のようなものまでいくつも連なっている。そして恐らく、魔法による防御もされている可能性もある。そこを無理やり入り込むとなると、時間との勝負になる。  四人は表門の見える大通りの角から様子を伺う。 「私兵は出払ってるとはいえ、それなりの防御はしておるだろう」 「ハザールだったら、ありえます」  この獣人の国で、国王に逆らう力があるとすれば、ハザール家がその一つ。今は平和なこの国も、二百年ほど前までは、権力争いに明け暮れていた。それが人間との交流を積極的に行ったシュライデン家が獣人の国で力をつけ、この国を統一した。それに最後まで抵抗していたのがハザール家だった。そうは言っても、それも二百年も前のこと。先代のハザール家の当主は、現国王の祖父とも親しい間柄だった。 「いつまでも、ここで待っていると、あいつらも戻ってきてしまうだろう」 「フローラの居場所は、予想できますか」  心配そうにエリィがナレザールに問いかける。ただでさえ、大きな屋敷で、部屋を一々探す時間はない。 「たぶん、この前とは別の部屋に移された可能性があるな。ノアを助けた時に、だいぶ荒らしてしまったからな」  苦笑いをするナレザールが、ゴソゴソとマントの下のツイードのジャケットのポケットから、革製の小袋を取り出した。 「それは?」  エリィたちは手のひらのそれに目を向ける。そこに現れたのは、小さな指輪だった。 「ずいぶんと小さい……ベビーリング、ですか?」  銀に輝く指輪には真っ赤なルビーの小石が嵌っている。 「フローラが赤ん坊のころに付けてやったヤツじゃ。これが、あの森に落ちていた。フローラの痕跡を探す途中、これを見つけた。それまでに、一年かかった」  感慨深そうにため息をつく。よく、こんなに小さいものを見つけられたものだ、と、レヴィたちは驚かされた。獣人であるならいざ知らず、魔法使いとはいえ、人間だ。その執念を思うと、ここまで来たからには、成功させなくてはならないと、気持ちが引き締まる。 「この指輪には、フローラの身体に施してある印との結びが残されておる」  印とは腕などに、目に見えない魔法の入れ墨を施すことをいう。それは、安全や健康を祈念するものがほとんどだ。これは魔法使いの中での古くからの習慣で、最近はそういった印を残す傾向が減ってきていた。 「これのおかげで、ここにフローラがいることはわかったのだが、相手はハザール家。なかなか、一筋縄ではいかなくての。何度も門前払いだった。あげくに今度は捕まえようとしてきた。さすがに堪忍袋の緒が切れて、ばあさんとやってきてみれば、ノアがいるものだから、フローラよりも、ノアのほうを先に連れて帰ってきたまで」  ベビーリングを革の小袋に戻すと、ギュッと握りしめ、ナレザールはブツブツと小さく呪文を唱える。指の間から、真っ赤な光が漏れてくる。 「まだ、フローラは屋敷の中におる。やはり、移動はしたが……意外だな……上のほうに移したようだ」  ナレザールの視線は、屋敷の両サイドに建てられている塔のようなものの一つに向けられている。そこは窓一つない、ただの飾りのような塔に見える。

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