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第115話 奪還(16)
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僕はおばあちゃんと一緒に、薬草がいっぱい吊るされている部屋で、薬作りに没頭していた。薬作り、といっても、おばあちゃんから渡された薬草を、一生懸命、すりこ木でするだけだけど。でも、これは無心になれるからちょうどよかった。そうでなかったら、僕はずっとレヴィたちのことを心配しながら待ち続けて、彼らが帰ってくる前に病気にでもなってしまいそうな気がしたから。
「ノア、それはもういいわ。じゃあ、今度は、これをお願い」
そんな僕のことをわかっているおばあちゃんは、どんどんと僕に仕事を振ってくる。このたくさんの薬草を何に使うのか、おばちゃんは何の説明もしてくれない。たぶん、薬草学の中でも、まだ僕が学んでいないものなのかもしれない。
おばあちゃんと、その作業に没頭していると、急にドアが大きくドンドンと叩かれた。その音に僕は思わず、小さく叫びそうになった。僕はおばあちゃんは鋭い眼差しで睨まれてしまった。ごめんなさい、と、口パクで謝ると、おばあちゃんは、しょうがないわねぇ、とでも言うような顔で苦笑いすると、ゆっくりとドアのほうに向かっていった。その間も、ドアはドンドンと叩き続けられる。おじいちゃんたちだったら、こんな風にドアを叩いたりしない。レヴィが戻って来た時は、自然にドアは開いた。それはきっと、許された者だけが入れるように、おじいちゃんが魔法をかけたのだろうから。
ガチャガチャとドアノブを回す音が聞こえて、僕は怖くなる。片手で握っていたすりこ木を、両手で握りしめる。こんな小さい棒じゃ、武器にも何もなりはしないのだろうけれど、今の僕には、唯一の武器だった。ドアのほうに佇むおばあちゃんのそばに寄ろうと、薬草の部屋から出ようとした。すると、バチッと、まるで静電気のように痛みが走り、部屋から出られなくなってしまっていた。
慌てておばあちゃんのほうを見ると、ニコリと笑って『そこでお待ち』と、口パクで伝えてきた。いつの間に、こんな魔法をかけたのか。おじいちゃん同様、おばあちゃんの魔法の力にも驚いてしまう。仕方がないので、薬草の部屋から、ジッとおばあちゃんの様子を伺っていると、再び、ドアが強く叩かれた。
「おい、誰もいないのかっ」
ドア越しに誰かが、誰かに問いかける声がする。
「……」
「……!」
それに答える誰かが、何かを話していると思ったら、再びドアを強く叩きだした。そこでおばあちゃんは、何か呪文を唱えると白い煙に包まれたと思った瞬間、ヒュンっと勢いよく煙が消えた。そして、そこに現れたのは……あれ?おばあちゃんのまんまだ。そのまま、おばあちゃんはゆっくりとドアを開けた。
「はいはい、どちらさま?」
僕は、おばあちゃんが何をするのか、まったく予想がつかなくて、ドアが開ききる前に、薬草の部屋のドアを閉めると奥の方に隠れた。
ドア越しに、おばあちゃんとしつこく開けようとしていた相手が話をしているのが聞こえる。最初は怒鳴るような感じだった相手だったのが、おばあちゃんと話をしているうちに、徐々に落ち着いた感じに変わっていく。そして、最後にはドア越しからはまったく声が聞き取ることが出来なくなった。
僕はおばあちゃんがすごく心配だったけれど、僕じゃ何の手助けにもならないのを自覚している。だから、おばあちゃんが戻ってくるのを、すりこ木を握りしめながら、ジッと待った。
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