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第118話 奪還(19)

 こんな僕にできることと言えば、おじいちゃんたちが治療を終わらせた後、ゆっくりしてもらえるように、温かい飲み物を用意することくらい。僕は、涙を止められないまま、やかんに水を入れて湯を沸かし始めた。  エミールは、しばらく椅子に座っていたけれど、ピクリと耳を動かすと静かに立ち上がった。 「……どうしたの」  僕は不安になりながら、エミールの様子を伺う。静かにそばに寄ろうとすると、エミールは僕の方に左手を伸ばした。動くな、ということだろう。僕はドキドキしながら、エミールを見つめる。その緊張で、いつの間にか、涙が止まってしまった。  しばらくすると、外を複数の足音が家の前を慌てたように走っていく音が聞こえたが、それは立ち止まることなく、通り過ぎていった。  完全に足音が聞こえなくなったところで、僕たちは大きく息を吐いた。つい、息まで止めてしまっていたようだ。 「……ハザール家の追手?」 「たぶん。レヴィの血の匂いをつけてきたのかもしれない。一応、この家に入る前に、あちこちに跡を残してきたんだが」  エミールは考え込むようにジッとドアを見つめる。僕は、そんなエミールを見つめるしか出来なかったけれど、お湯が沸騰した音に気付くと、慌てて火を止めた。おじいちゃんたちは、まだ部屋から出てきそうもない。 「エミール、コーヒーか紅茶、どっちがいい?」  僕の声に反応もしないエミール。ずっと何かを考え続けている。 「エミール?」  彼のそばに寄って声をかける。すると、ようやく気が付いたのか、僕のほうを見下ろすと、力強い腕が、僕を抱きしめた。 「すまん。ノア。俺が一瞬、隙を見せたばかりに」 「エミール……あなたが隙を見せるなんて、考えられないよ」  実際、いつもレヴィのことを目立たずに守っている姿を見てきたもの。 「たまたま、レヴィのほうが先に、エミールへの攻撃に気が付いたから動いた、ということじゃないの?」  僕の言葉に、エミールは悔しそうに口をつぐむ。僕は、エミールの背中をポンポンと優しく叩く。徐々に彼の身体の力が抜けていくのがわかった。 「僕、カフェオレ飲もうと思うんですけど、エミールはどうする?」 「……俺はブラックで」 「わかった」  ゆっくりと彼の腕の中から抜け出すと、僕はキッチンに戻り、マグカップを探し始めた。エミールは椅子に座ると、おもむろに携帯を取り出した。 「エミールも、持ってたの?」  マグカップをテーブルの上に置きながら、エミールの手元を覗き込む。 「ああ、万が一用にね。滅多に使わないし、登録も必要最低限しかないから」  そう言いながら、どこかに連絡を入れ始めた。僕は、自分のカフェオレ用にと牛乳を探しにキッチンの冷蔵庫の戸を開けた。

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