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第119話 目覚める白金(1)

 おじいちゃんたちが部屋から出てきた頃には、外は真っ暗になっていた。その間、何度も家の前を走り回る足音が聞こえたけれど、結局、この家には気づかないで、何度も通り過ぎていった。 「しかし、時間の問題かもしれんな」  おじいちゃんは、僕のいれた紅茶を飲みながら、溜息をついた。さっきは血まみれだったけれど、今はその血も拭き取られ、いつも通りの格好に戻っていた。だけど、かすかに血の匂いが残っていることに、僕は気が付いた。  おばあちゃんは、何も言わずにキッチンのほうで何やら料理を始めていた。ずっと治療をしていて休む暇もなかったはずなのに。 「レヴィのほうは、動かせそうですか」  エミールがエリィさんとおじいちゃん、二人に目を向ける。すると、エリィさんは苦笑いをしながら紅茶を一気に飲み干した。 「あいつのことなら、動くな、と言っても、動くでしょう。今は、薬で眠ってますけどね」 「おじいちゃんの血は?」  僕は、さっき入って来た時、血まみれだったのを思い出して尋ねると、おじいちゃんは、ニヤリと悪そうな顔で笑った。 「あれは、わしのじゃない」 「……タイミング悪く、我々が入った時に、フローラ様の面倒を見ていた者がいたんです。それが、ナレザール様に襲い掛かって来たものだから」  おじいちゃんが、どんなことをしたのかは想像が出来ないけれど、相手からの返り血なのは想像がついた。 「エリィ、お前の親父さんに連絡とった」  エミールは、携帯を見つめたまま、斜め前に座るエリィさんに伝えた。さっきから連絡をとっていたのは、エリィさんのお父さんにだったのか。 「何、ヒデュナに」  おじいちゃんは、困ったような顔をしながら、料理をしているおばあちゃんの背中に目を向ける。そんなことを知ってか知らずか、おばあちゃんは振り向きもしない。 「父さん、なんだって」 「うちに連れてこいだって」 「誰を」 「全員」  淡々とやりとりをしている二人。だけど、エリィさんは、少しずつ困惑したような顔つきになる。 「どうやって?」  僕は二人の顔を見比べながら、問いかける。だって、この状況でどうしたらいいのか、僕には想像がつかないから。  おじいちゃんも二人の顔をジッと見つめていたけれど、不意に何かを思い出したかのように立ち上がると、薬草の部屋のほうへと歩きだした。 「おじいちゃん?」  おじいちゃんは薬草の部屋の隣の部屋のドアを開けると、中に入っていった。僕たちも、おじいちゃんの後を追って部屋の中をのぞく。ここはただの物置みたいで、すごく狭かった。こんなところに何があるというんだろう?と思って見ていると、おばあちゃんの料理が出来上がったようだった。 「あなたたち、ご飯よ」  おばあちゃんの呼ぶ声に、おじいちゃんは返事もしないで、ずっと部屋の中でゴソゴソと何かを探している。 「何、探してるの?僕も手伝うよ?」  そう声をかけた時。 「おお、あった、あった」  部屋の奥のほうから、細長い板のようなものを引っ張り出してきた。それを見たエリィさんが、慌ててそれを受け取ろうとする。 「おお、すまんな。これを、そこの壁に立てかけてくれ」 「はい」  エリィさんが受け取ったのは、もの凄く汚れた古い鏡のようだった。しかし、あまりに汚くて、僕たちの姿すらも映らない。僕は指先を鏡の面に擦り付けると、案の定、指先は真っ黒になった。 「これ、何?」  僕は顔を顰めながらおじいちゃんに問いかけると、おじいちゃんは嬉しそうに答えようとした。だけど。 「いいかげんに、ご飯食べてくださいなっ!」  おばあちゃんの声に、それは阻まれて、僕たちは慌ててテーブルにつくことになった。

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