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第121話 目覚める白金(3)

 僕とレヴィは鏡の前に立っている。おじいちゃんの治療のおかげか、パッと見た感じ、怪我人には全然見えない。そして僕の腕の中には、大き目な木箱。その中はフカフカの深紅のクッションに眠る小さな小さな母様がいる。 「こんなに小さいなら、人数に入らないんじゃないの?」  僕はおじいちゃんにそう言ったけれど、この鏡はそういう融通が利かないらしい。僕は、怪我人のレヴィを見上げながら、すごく不安になる。 「レヴィ、とりあえず王宮に向かうのは、俺が追いついてからにしろ」  エミールが真剣な声で警告した。おじいちゃん曰く、レヴィは万全ではないから、下手に魔法を使うと身体への負担がかかるという。エリィさんの家だったら、エリィさんのお父さんが守ってくれる。だけど、万が一、途中で刺客に襲われたら、僕じゃレヴィを守り切れない。むしろ、足手まといになる。 「わかってる。ヒデュナの所になら、治癒に長けた者もいるだろうしな」 「それと、念のため、おまえさんにエリィに偽装してもらわんとな。どこで誰が見ているかわからない。ノアを守るためにも、お前さんを守るためにも、な」  そう言うと、おじいちゃんが呪文を唱え始めた。その声は低くて心地よくて、僕はうっかり眠くなってしまう。 「こら、ノア、寝るな」  おじいちゃんに頭をコツンと叩かれて、ハッとする。呪文が終わったおじいちゃんは満足げにレヴィを見てる。あ、いや、エリィさん? 「さすが、ナレザール様。自分でもびっくりです」  エリィさんが二人。僕はキョロキョロと見比べてしまう。 「え?す、すごいっ」  着ている物から毛皮の色、目の色までそっくりで、二人が並んだら、どっちがどっちかわからない。それは人間(半獣人)の僕が見るからで、獣人同士で見たら違いがわかるのかと思いきや、エミールも二人を見比べて驚いている。 「次は我々が変わる番だな」  そう言うと、おじいちゃん、おばあちゃん、エリィさんが、それぞれに呪文を唱え始めた。三人の呪文を唱える声が重なって、美しいハーモニーが奏でられ、まるで歌を聴いているみたい。白い煙が徐々に身体に取り巻いていく。そして、呪文が唱え終わる頃、煙も消える。目の前にいるのは、おじいちゃん、おばあちゃん、そして、母様。 「え、すごい。エリィさんが、おじいちゃん?おじいちゃんが、おばあちゃん?おばあちゃんが、母様?」  起きている状態の母様の姿に、僕は涙が溢れてくる。それが、おばあちゃんだとわかっていても。  僕の腕の中で眠る母様。早く、目を覚まさせてあげたい。僕は腕の中の木箱を力強く抱きしめた。

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