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第123話 目覚める白金(5)

 宿屋を出ると、外はもう真っ暗で、街の中の灯りは街灯くらいしか灯っていない。当然、道を歩く人影もない。そんな中、宿屋の前には、大きな黒い車が止まっていた。  僕たちの姿が宿屋から現れた途端、運転手が降りてきて、後部座席のドアを開けた。ヒデュナさんがそのまま乗り込んでいく。 「あ、僕が助手席に行きますね」  木箱を抱えたまま、僕は助手席のドアを開けて乗り込んだ。それを止めようとエリィさんの姿のレヴィが、僕を捕まえようとした。だけど、ヒデュナさんの「ゴホンッ!」という咳で、その手は止まった。  先に乗り込んでいたヒデュナさんが、レヴィに向かって「早く乗りなさい」と声をかけると、渋々、後ろの座席に乗り込んだ。その姿がエリィさんなのに、僕には当たり前だけどレヴィにしか見えない。だから、つい、クスクスと笑いが零れてしまった。  ヒデュナさんのお屋敷は、車で二十分くらいのところにあった。静かにお屋敷の門が開き、車が入っていく。 「もう、この時間では起きている者はあまりおるまい。エリィ、お前は彼と一緒でいいんだね?」  ヒデュナさんが確かめるように、僕とレヴィに目線を送る。僕はレヴィと一緒だったら、どこでもいいと思ってた。むしろ、一人にされるほうが怖かった。  レヴィがコクリと頷くと、ヒデュナさんも、少しホッとしたような顔をした。  ほどなく、お屋敷の入口の前に車が止まった。僕たちは車から降りると、お屋敷の大きなドアを開いて中に入る。エントランスは煌々と明かりが灯っているけれど、誰も現れない。急にヒデュナさんがレヴィのそばに寄って、僕に聞こえるか聞こえないかの小さな声で話しかけた。 「エリィの部屋は、おわかりですね?」 「ああ」 「ノア様、フローラは私のほうでお預かりしましょう」 「え……」  僕は木箱をギュッと抱きしめる。だけどヒデュナさんは、優しく微笑みながら手を差し出した。僕は、この人に母様を預けられるのか。 「……大丈夫です。マリーが面倒を見ます。彼女は、フローラと大の親友でしたから」  力強く頷くヒデュナさんの瞳をジッと見つめる。  この人なら大丈夫、そう思えた。 「お願いします」  僕から木箱を大事そうに受け取り、ヒデュナさんはすぐに身体を離して「もう、遅い。早く部屋に行って休みなさい」と、普通の声のボリュームでそう言うと、僕たちから離れていった。

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