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第127話 目覚める白金(9)

 僕たちが呼ばれたのは、とてもこじんまりしたお部屋だった。給仕をする人が二人いるだけで少し狭い感じを受ける。そして、さほど大きくないテーブルに、ヒデュナ様とその奥さんが、にこにこしながら座って僕たちを待っていた。 「おはよう。エリィ。ノア様。ゆっくり眠れましたか?」  なんだか意味深な目付きでレヴィを見るヒデュナ様に、レヴィは困った顔をした。 「ええ。ありがとうございます。久しぶりにゆっくり眠れました。それに、あのバラの花……すごくよい香りですね」 「喜んでもらえたのなら嬉しいですわ」  奥さんのマリー様はゆっくりと立ち上がると、僕のそばに歩み寄る。僕よりも大柄な彼女は、膝を折って僕へ頭を下げた。 「ノア様、ご無事で何よりでした」 「え、あ、あのっ」  僕が困惑していると、彼女は薄っすらと目に涙を浮かべながら、僕を見つめ「フローラもあんな形とはいえ、生きててくれて……本当に嬉しいです」と、僕の手を握りしめた。 「マリー、ノア様も困ってるぞ。早く食事にしよう」  ヒデュナ様が優しくそう声をかけると、慌てたように立ち上がると、僕のために椅子を引いてくれた。僕はなんだか、恥ずかしいのと、こんなに喜んでもらえて嬉しいのとで、顔が真っ赤になってしまった。 「エリィも早く座りなさい」 「……はい」  レヴィはゆっくりと席につくと、それを待っていたかのように、さきほどの給仕をしていた人たちとは別の、執事のような人が僕たちの前に美味しそうな朝食を並べ始めた。少し、白い毛が生えている黒い犬の顔の獣人が、僕の顔を見て、にっこり微笑む。僕はその顔に、なんとなく見覚えがあったものの、しっかりは思い出せなかった。 「ノア様、彼を覚えておりませんか?」 「えっ?」  マリー様の声で、もう一度、その黒い犬の獣人を見つめるけれど、やっぱりぼんやりとした印象しかない。 「ごめんなさい。僕……あんまり幼い頃の記憶がないんです……」 「まぁ……」  悲しそうな声をあげるマリー様に、黒い犬の獣人も悲しそうな顔をした。 「奥様、よいのですよ。あんなお辛い経験をされたのです。覚えていらっしゃらなくて、仕様がありません」  黒い犬の獣人が、僕の席のそばにくるとゆっくりしゃがみ、僕を優しい瞳で見上げてきた。そして気が付いた。この声。僕たちを起こしにきてくれた人だ。それを思い出して、少し恥ずかしくなる。 「ノア様がお小さい時。レヴィ様やエリィ様たちと遊んでいる間、いつも私がおそばにいさせていただいておりました。ホルグと申します。再び、貴方様とお会いできて、嬉しゅうございます……」  ホルグさんも目に涙をためて僕を見つめるから、僕まで貰い泣きしそうになる。 「ほら、ホルグ。お前まで泣いてどうする。さっさと食事にするぞ」 「も、申し訳ございません。どうぞ、たくさんお召し上がりください」  そう言うヒデュナ様も、少し目が潤んでいるのに、僕は気が付いてしまった。  出された食事は、すごく美味しくて、残らず平らげてしまった。そんな僕を見てレヴィはびっくりした顔をしてた。そういうレヴィも、かなりたくさん食べたみたいで、ワゴンに用意されていた量では足らなくて、何度か給仕の手伝いの人が食事を運んできていた。  その様子にホルグさんがひどく驚いた顔をしていた。確かに、この食事の量は普通に驚くかもしれないけれど、もしかして、エリィさんは、家ではあんまり食べないんだろうか。そこで少し不安になった。僕たちは、どこまで気を付けなくてはいけないんだろうか、と。 「ヒデュナ様、あの、ホルグさんは大丈夫なんですか?」  僕のこの言葉だけで通じたみたいで、ヒデュナ様は少し厳しい顔をしてホルグさんのほうに視線を向けた。

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