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第128話 目覚める白金(10)

 その視線に応えるように、ホルグさんは部屋のドアのところへ行くとカチリとドアの鍵をかけ、何事か呟いた。すると、ドア一面が一瞬、微かに輝いた。 「旦那様、大丈夫です」 「ああ、すまない」  そこでようやくヒデュナ様の表情が和らいだ。 「レヴィ様、ノア様。ホルグはノア様のことを存じ上げておりますので、今回、お世話をさせるために話をしております。しかし、他の者にはまだ話しておりません。もうしばらく、レヴィ様、エリィのままでお願いします」 「わかった。今はナレザールがかけている魔法のおかげでエリィの姿でいられているが、恐らく、夕方にはそれも解ける。俺自身、まだ、身体の傷が完治していないから、長時間の自信がない。ヒデュナ、お前に任せられるか」  レヴィが悔しそうにそう語るのを、ヒデュナ様とマリー様が痛々しそうに見つめた。 「畏まりました。治癒なら、マリーも長けております。よろしければ、フローラの部屋で共に治癒の術を受けられては」 「……わかった」  僕たちは食事を終えると、一度、母様の様子を見に、マリー様の後をついていった。僕たちが入った部屋は、三階の角にある、とても日当たりのよい部屋だった。 「ここは、私たちの部屋の隣にある客室の一つよ」  そこからも庭園の様子が見ることが出来た。 「お庭、すごく広いんですね」  常緑樹ばかりではなく、紅葉した木々もうまく配置され、またその高低差を使った風景の美しさにため息が出る。花壇には、秋の花々が咲き乱れ、季節に合わせた植物を、ここまで美しく整え、世話をする人がいることに、尊敬の念を抱いた。 「ええ、他にも温室やバラ園などもあるわ。その中には魔法に使う植物も多く生えているのよ」  そう言うと、「少し待っててね」と言ってマリー様は部屋を出てった。でもすぐに、木箱を抱えて現れた。母様が入っている木箱だ。僕はマリー様のそばに駆け寄る。マリー様がそっと蓋をあけると、そこには、相変わらず真っ青な顔をしたまま眠り続ける小さい母様がいた。 「母様……」  僕は少しだけホッとしてため息を漏らす。 「フローラもレヴィ様と同じくらいのタイミングで魔法をかけられたのですね?」 「ああ、たぶん、彼女も夕方には元の身体の大きさに戻るだろう」 「では、少し早いかもしれませんが、大きなベッドに寝かせましょうか」  そう言うとマリー様は木箱から母様を大事そうに出すと、ベッドの上に横たえた。広いベッドの上にポツンと置かれた姿は、まるでお人形のようだった。 「……僕があの家で母様を見た時は、触れることも出来なかったのに」 「防御の魔法でもかけてあったのかもな。まぁ、それだって、ナレザールにしてみたら、解くことは容易いだろう」  エリィさんの姿のレヴィが、僕の隣に立ちながら静かに話す。 「そういえば、レヴィ様のお体も私に診せてください」 「ああ、そうだったな」  椅子に座るレヴィの身体を、マリー様が触れていく。痛みがあるのだろう。時折、顔を歪めるレヴィ。僕もつられて、眉間に皺がよる。見ているだけなのに、僕の身体にも痛みを感じてしまうような錯覚を覚える。 「あ、あの、マリー様」 「何?」  僕の方を振り向きもせずに、マリー様はレヴィの傷を探り続ける。 「僕、外で待っててもいいですか」 「ええ、いいわよ……そうだ。このお部屋に飾るバラをとってきてくださる?バラ園に、今、秋に咲くバラが見ごろなのよ」 「……わかりましたっ」  僕は部屋から飛び出して、バラ園へと向かった。

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