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第129話 目覚める白金(11)

 屋敷の中でホルグさんを捕まえてバラ園への行き方と、園芸用のハサミ、そして軍手を受け取った。 「棘に気を付けてくださいね?」 「はい」  ホルグさんの言葉に素直に頷くと、屋敷から外へ出る。右手に行けば上から見えた、あの大きな庭園、逆に行けば、バラ園と温室があるということだった。  砂利道を音をたてながら歩いていくうちに、バラのよい香りがしてきた。その匂いを辿っていくと、バラ園の入り口らしきところに着いた。アーチの周りには花は咲いていないけれど、バラの匂いだけがする。僕は、中へとゆっくりと足を踏み込んだ。様々な種類のバラで生け垣が繋がっているようだ。この季節でもたくさんのバラが咲いていることに驚く。中へと進んでいくと、エリィさんの部屋にあった、可愛らしい薄いピンクのバラがあった。僕は自然とそのバラへと顔を近づける。 「いい匂い……」  ポツリと声をもらす。この花もいいな、と思いながら、他にもないかな、と、ゆっくりと歩き始めると、カサッと葉が揺れる音がした。 「だ、誰?」  誰もいないと思ってたのと、今までのことがあるから、小さな音でもビクッとしてしまう。僕の鋭い声に反応してか、再び、カサカサッという音とともに、一人の若い男の半獣人が申し訳なさそうな顔で現れた。 「あ、あの……ホルグさんに言われて……」 「そ、そうなんですか」  僕は初めて半獣人の姿というのを見た。耳と尻尾、それがなければ、人間の姿とあまり変わりない。しかし。 「……綺麗ですね」  思わず、そう声が出てしまった。彼の耳もふさふさの尻尾も見事に白い。それに合わせたように髪も白い。長い睫毛の下に隠れるように見える深いエメラルドグリーンの瞳からは遠慮気味な視線。ピンク色の頬と艶やかな赤い唇。正直、女性といっても通りそうな顔立ちに、呆然と見つめ続けてしまう。 「あ、あの?」  困ったような彼の声に、ようやっと我に返った僕。 「す、すみません。ちょっと、部屋に飾るバラをいくつか欲しいんです」 「……はい。どういったものになさいますか?」  彼は僕のそばまで来ると、僕が手にしていたハサミと軍手を受け取った。作業着らしきものを着ていることからも、彼はここの庭園でお仕事をしている人なのかもしれない。背の高さは、僕と大して変わらない……いや、彼の方が少し大きいかもしれない。 「一応、園内の手前側のほうが、咲いているバラが多いです」  そして奥の方へと歩き出した。僕は彼の後を大人しくついていく。歩くたびに揺れる白い尻尾。レヴィたちにもついている尻尾は、とても雄々しい感じがするのに、彼のそれは、どこか優美ささえ感じる。

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