130 / 160

第130話 目覚める白金(12)

 僕も同じ半獣人のはずなのに、自分自身の本当の姿も知らない。彼のように美しければいいけれど、そうじゃなかったら。レヴィのようにカッコいい獣人の隣に、僕なんかが立っていいのだろうか。 「……この辺の花など、どうでしょう」  彼の声で、考え事からようやく抜け出して、周囲を見渡した。様々な大きさ、色のバラが溢れている。 「うわぁ!すごい!」 「……秋なので、あまり多くはありませんが」 「それって、春はもっとすごいんですか!?」  隣に立っている彼に興奮気味に問いかけると、彼は少し嬉しそうな顔で微笑んだ。 「はい。このバラ園の奥には、ヒデュナ様ご夫婦のご結婚の記念にと、国王様から贈られたバラがございます。ベルベットのような濃く紅い花弁の見事さは、思わず息をのむほどです」 「そうなんですね。見てみたいなぁ……」  その様子を想像しながらうっとりと呟くと、隣の彼がクスリと笑った。 「あ、す、すみませんっ。そ、それよりも、部屋に飾るバラですよね。えと、どれにしようかなぁ」  僕は恥ずかしくなって、目の前にあるバラのほうに顔を向けた。どれも美しくて、迷ってしまう。 「お部屋に飾るのでしたら、あまり匂いのきつすぎないものがいいのではないでしょうか」  そう言うと彼は、縁が濃いピンクで、がくのほうへ行くほど白くなっていくバラと、全体的に濃い黄色、なのか、オレンジなのか、それにうっすら赤みを帯びたバラの二つを指さした。 「どちらもあまり匂いは強くはありません。比べてみてください」  僕はそれぞれに鼻を近づけてみる。確かに、そばまで寄らないとあまり匂いを感じない。でも、僕の好みの匂いとしては、オレンジ色っぽいバラのほうが好きだ。 「あの、このオレンジ色のほうをいただけますか」  彼は頷くと、すぐに何本か切ってくれた。そして、バラの棘を取ろうとしてくれるけれど、どうも上手くいかないらしい。 「あ、いいですよ、そのまま。軍手を貸していただければ」  そう声をかけると、顔を真っ赤にして「だ、大丈夫ですっ」と、僕に背中を向けて棘を取るのに必死になっていた。なんだか、そんな姿が可愛くて、今度は僕の方がクスクスと笑ってしまった。 「お、お待たせしました」  顔を赤くしたまま、彼は僕に花束をくれた。顔を近づけて、その匂いを思い切り吸い込む。 「いい匂い……ありがとうございました……あの、お名前聞いてもいいですか?」  そう問いかけると、彼は顔を強張らせた。でも、それも一瞬のことで、すぐに穏やかな顔に戻って、小さく頭を下げた。 「ルイ、と申します。ノア様」 「あ、僕の名前、ご存じなんですか」 「ええ、屋敷中で噂になっております。若様の幼馴染でらっしゃると」  まさか、僕のことが噂になっているとは思いもしなかった。僕自身、顔を合わせて、話をしてるのは、ヒデュナ様ご夫婦とホルグさんくらい。それ以外となると、朝食の時、給仕に入ってた人たちか。 「そ、そうなんですね」  下手なこと出来ないな、と、思いながら、僕はルイさんと一緒にバラ園から出るためにゆっくりと歩き出した。

ともだちにシェアしよう!