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第134話 目覚める白金(16)

 ……レヴィの言葉の意味が、なかなか頭の中に浸透してこない。 「え?じゃあ、女性の半獣人は?」 「……人間であっても妊娠はできない。そもそも、そういう魔法だから」  その言葉に、ゾッとした。人間としての人生は送れても、半獣人としての人生は送れない、という意味かと思っていたけれど、女性だったら、それ以上に辛い魔法だ。 「恐らく、お前の魔力は半獣人になった時に解放されるのだろう。だから今、人間の姿のほうでは、まったく魔法が使えないんだと思う」  そう言いながら、レヴィはハチミツ色の飲み物を口にするけれど、すぐにグラスを離した。 「甘っ、なんだこれ」  げんなりした顔を一瞬見せると、グラスをテーブルに静かに置いた。そんな彼を見て微笑む僕の頭を優しく撫でながら、ジッと見つめる。 「この魔法には、古い伝説がある。その昔、獣人の王が人間と恋に落ちて、美しい娘が生まれた。生まれてすぐ、この娘は隣の国の獣人の王子のもとへと嫁ぐことが決まった。しかし、妻である人間が何者かに殺され、王が悲嘆にくれている隙に、婚約と同時に貞操の魔法をかけられた娘が、何者かに攫われたのだ」 「……まるで、僕みたいだね」 「ああ、そうだな……その娘は、どういう道のりを経たのかはわからないけれど、年頃になった頃、その隣国へと流れついた。そして、そこで王子と再会したんだ。彼女の方は、相手のことなど知りもしなかったけれど、王子にはわかったんだ」  話をしているエリィさんの姿が、徐々にレヴィの姿へと戻っていく。どちらかといえば穏やかな顔立ちのエリィさんから、鋭くて蒼い瞳で、精悍な顔立ちのレヴィへと。 「しかし、彼女は人間の姿で、それも、貴族の下女として働いていた。王子は、彼女を救い出すと、自分のモノだという印をつけた。その途端、彼女はそれは美しい半獣人の姿になって、王子と幸せに過ごしたそうだ」  その話は、まるで自分のことを語られているような錯覚を覚える。ただ、その半獣人は女性で、僕は男だっていう違いがあるということ。 「その印って?」  僕の問いに、レヴィは一瞬口をつぐむ。 「レヴィ?」 「……セックスして自分のモノにしたってことだと思う」 「セ、セ、セックスッ!?」  つい大きな声を出してしまった。僕は、落ち着こうと、目の前の飲み物を一気に飲み干す。やっぱり、これ、甘い。 「伝説の通り、この魔法の解き方は、まさにセックスが必須なんだ。それも、それを解く鍵は、呪文をかける時に刻み込まれた解くべき相手でないと意味がない。これが他の人間や獣人であっても、解くことは出来ない」 「……僕の場合は、レヴィだってこと?」  マリー様が言っていた「気に入っていた」ってそういうこと?どれだけ、母様がレヴィを気に入っていたんだ、と思うと、それはそれで凄いなって思う。そして、もう一つ思い出した。ナディル・ハザールは、僕のことも狙っていた、ということを。まさか、母様は、それすらも見越していたんだろうか。

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