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第135話 目覚める白金(17)
僕が声もなく、考え込んでいるとレヴィが優しく話しかけてきた。
「まぁ、なんだ。俺は、お前が人間の姿の男だろうと構わないんだ。だって、半獣人でだって、お前は男だし。抱こうと思えば、抱ける。」
「だ、抱くって」
今朝のレヴィの身体の反応を思い出してしまって、あわあわとなる。そんな僕を、レヴィは真剣な眼差しで見つめる。その視線に、ドキッとして、動きが止まる。
「ただ、お前が嫌だったら、無理をしてまでとは思っていない。お前が大事だから。俺のそばにずっといてくれれば、それでいい」
「え?でも……」
僕はレヴィの視線から逃れるように顔を背けると、バラの花へと視線を移した。
ここは、国王夫妻が泊ったこともあるお部屋。そこでの営みがあるからこそ、この人が産まれてきたはず。このままレヴィとセックスをせずに、人間の男である僕のままでそばにいるだけでは、レヴィの跡継ぎは産むことは出来ない。そうなったら、この国の未来は?
「俺に子供が出来なければ、エミールが跡を継げばいい。エミールが嫌がるなら、エミールの子供でも構わない。それがダメなら、他の方法を考える。俺にはお前がいれば、いいんだ。……いや、お前がいなくちゃダメなんだ」
僕の考えなどお見通し、ということなんだろう。そして、レヴィが僕のことをこんなにも大事に思ってくれてる。それを言葉にして訴えてくれる。そう思ったら、なんだか胸の奥のほうから喜びが湧いてくる気がした。
そして、その喜びは、レヴィなら大丈夫、という不思議な自信へと変わっていく。
「レヴィ……」
僕は再びレヴィに顔を向け、ゆっくり立ち上がり、隣に座っていたレヴィを強く抱きしめた。彼の力強い腕が、僕を守るように抱きしめ返してくれる。
ああ、やっぱり。この人なら大丈夫だ。
「……いいよ」
レヴィの白銀の毛皮に顔を埋めながら、そっと呟く。彼の大きな耳がピクリと動く。
「えっ」
絶対、聞こえてるはずなのに、レヴィは僕に聞き返してきた。こっちは、恥ずかしいのを我慢して言ったのに。
「だからっ……いいよって言ってるの」
バッ、と僕を剥がすように身体を離すと、ギラギラした瞳が僕の顔を覗き込んだ。まさに猛獣の顔で見つめる彼に、身体が強張る。
「ああ、ごめんっ、怖いか」
レヴィは僕から腕を離すと、大きく息を吸い込んで、瞼を閉じながら、ゆっくりと息を吐いていく。それを何度か繰り返していくうちに、目の前には獣人ではなく、人間の姿をしたレヴィが現れた。
「レヴィ……」
久しぶりに見る、その姿は、あまりの美しさに目を奪われる。銀色の長い髪が、サラサラと揺れる。獣人の時と同じ蒼い瞳は、僕を優しく見つめている。
「ノア、おいで」
そういって僕に向かって手を伸ばした。
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