142 / 160

第142話 目覚める白金(24)

*** 「うっ」  寝返りを打った瞬間、身体に痛みを感じ、思わずうめき声をもらしてしまった。  どうも僕は寝てしまっていたらしい。僕はゆっくりと目を開ける。天井の灯りが眩しくて、すぐに目を閉じる。瞼を擦りながら、もう一度目を開けると、僕は薄い毛布をかけられて、一人で裸のまま大きなベッドに横たわっていた。 「……レヴィ?」  バラの花の匂いが充満した部屋の中を見渡すけれど、レヴィの姿が見えない。でも微かに残る彼の匂いを感じ取ることが出来る。そのことを不思議に思いつつ、身体を起こした。  すると、ジワリとお尻の奥の方から、何かが零れて流れ落ちていく感触にギョッとする。恐々とお尻の方へと手を伸ばし、指先でその液体に触れようとした時。 「ノア、起きたか」  浴室のドアを開けて、腰にタオルを巻いた獣人の姿のレヴィが現れた。それと同時に、彼の纏う匂いにクラッとする。今までは彼に抱きついた時くらいしか感じられなかったのに。  僕は伸ばしていた手を引っ込めると、お尻をキュッと締めた。なんか漏らしてはいけないような気がして。 「うん……僕、どれくらい寝てた?」 「たいして寝てない。小一時間くらいかな」  そう言うと、僕の隣に座り、僕の頬に鼻先を寄せる。その姿が可愛くて、つい、僕のほうからもスリスリと頬を寄せてしまう。 「もう獣人の姿に戻ったの?」 「ああ、人間の姿での行為は終わったからな」 「え?」 「……鏡を見てこい」  レヴィの嬉しそうな声に、僕は急いで浴室の大きな鏡の前へと向かおうと立ち上がろうとした。 「あっ……」  しかし、足に力が入らなくて踏ん張れずに、ペタリと膝を落としてしまう。そして、同時に、ツーッと足の間を垂れていくモノ。 「ああ、悪い」 「え?」  レヴィが慌てて立ち上がる。僕はきょとんとした顔でレヴィの顔を見つめると、恥ずかしそうな顔で、僕を抱き上げた。 「お前の中で出したままだった」 「へ?」  どうも僕は記憶があやふやになっている。お風呂でレヴィに身体を洗ってもらっている間に、だんだんと身体のほうが熱くなって……と、思い出そうとしているうちに、浴室の中の鏡の前についていた。 「わぁ……」  鏡に映っているのは、美しく逞しい白銀のレヴィと、それに抱えられているのは。 「……これが僕?」  浴室でレヴィの瞳の中に映った小さな姿と同じものが、鏡の中に存在してる。白金の長い髪、大きな耳、明るい金色の大きな瞳に、ふさふさの尻尾。身体の大きさも、人間の姿の時よりも、少し大きい気がする。そして白い肌にはいくつもの赤い小さな斑点と、噛み痕が残されていた。 「ああ、これがお前の本来の姿だ」  蒼く力強い瞳が、鏡越しにも僕を見つめる。僕もその眼差しに応えるように目を向けると、レヴィの鼻先が僕の耳元をなぞり、ペロリと舐めた。 「くすぐったいっ」  僕は声をあげて笑うと、レヴィの首に抱き着いて、頬にキスをした。 「ありがとう……レヴィのおかげだよ」 「……ノア」  レヴィの大きな舌がベロリと頬を舐めたから、思わず文句を言う。 「レヴィ!顔がべたべたになっちゃう……あ、それに、その……お尻のやつ、気持ち悪いんだけど……」  こんなこと言うのは恥ずかしかったけれど、早いところ、なんとかしたいって思った。だけど。 「ダメだ」  レヴィがニヤリと笑いながら、浴室を出てベッドのもとへと戻ってくる。 「え?なんで?」  ゆっくりと僕をベッドに下ろすと、僕の身体にまたがり、意地悪そうな顔で見下ろしてきた。 「まだ、終わりじゃないからさ」 「え?」 「最後に獣人の姿でお前の身体に刻み込む。それでようやく終わりだ」 「え?え?え?」 「大丈夫、もう、お前は半獣人の姿になったのだから……ちょっとやそっとじゃ、壊れやしないから」  ……僕は、この後、延々とレヴィに抱かれ続け、解放されて眠りにつけたのは次の日の明け方近くだった。

ともだちにシェアしよう!