カーテンの隙間が白んでいる。そして微かにドアを叩く音が聞こえた。 　怪我人のはずのレヴィの容赦ない行為のお陰で、僕はくたくたになっていて、身体を起こすことすらままならなかった。 「レヴィ……」 　掠れた僕の声に、レヴィの耳がピクリと動く。そしてゆっくりと身体を起こし、大きくあくびをして、伸びをする。その背中の筋肉の動きに目を奪われていると、再びドアをノックする音とともに、『開けてもよろしいですか』というヒデュナ様の声が聞こえた。 「構わない」 「えっ！」 　レヴィの躊躇ない声に、僕の方が慌ててしまう。だって、僕は裸のままで、それもあんな朝までしてたのに。部屋の中は、僕たちの……僕たちの匂いで充満してるはずなのにっ。 　僕は恥ずかしくなって薄い毛布の中に潜り込んだ。 「失礼します……いかがでしたか」 「上手くいった」 　ヒデュナ様の心配そうな声に反し、レヴィは自信満々に答える。何が上手くいった、だよ。バラの強い匂いでも、僕とレヴィの匂いは消せていない。それなのに。 「ノア様……お顔をお見せください」 　僕は恥ずかしくて、もっと毛布の中に潜り込む。だけどレヴィはそんな僕の首根っこを掴んで引きずり出そうとする。僕はなんとか毛布を身体に巻き付けて、肌を隠そうとした。 「いやっ……ぁ？」 「おおおおおっ！」 　嫌がる声に被さるように、ヒデュナ様の大きな声が部屋の中を響いた。 「ああ、よかった……あの頃の面影がございますな……」 　両手を握りしめながら、嬉しそうな顔で見つめるから、僕のほうも恥ずかしくなる。 「それに……もしや、魔力のほうは」 　確かめるようにレヴィに問いかけ、レヴィも僕の顔を覗き込む。自分の身体だけれど、魔力の感触というものがさっぱりわからないから、実感がない。 「……ノア、学校で教わった魔法、覚えているのはある？」 「え？えと……」 　僕は左手の人差し指をピンと立てると、指先に灯を灯す呪文を、呟いた。授業中は、チロリとも光の気配すら出なかったのに。 「うわっ！」 「ノアッ！？」 　授業中、周囲の皆の灯りも小さいものだったのに、今、勢いよく目の前に灯った光は、大きな風船くらいの大きさくらいにまで膨らんでしまった。 「アチッ、熱いっ」 　熱さに驚いて、巻いてた毛布も外れてしまう。恥ずかしい格好になっちゃってるんだけど、それを気にする余裕もない。困ったことに、僕にはこれの消し方がわからなかった。授業でまともに灯ってないのだから、消し方も理解など出来る訳がない。 「レ、レヴィ！消し方、消し方、わかんないっ」 「ちょっ、おい、ノア、振り回すなっ！」 　指先の大きな灯りを振り回しながら、僕はレヴィに助けを求めた。だけど、レヴィは大きな灯りを避けるだけで、消し方を教えてくれない。 「ど、どうしたらいいのぉぉぉ」 　叫んだ瞬間、シュー！という音共に、灯りが一気に消えた。僕は急な展開に、びっくりして、固まってしまう。何が起きたというの？ 「……なるほど」 　そこでようやくヒデュナ様の声が聞こえてきた。それは、ひどく興味深げな声で、ジッと僕を見つめている。思わず、自分の状態に気が付いて毛布を巻き付ける。そして、僕の傍に戻って来たレヴィに抱き着いてしまった。 「これはまた、やっかいですね」 「……今まで魔力が封じられてきたからな。使い方もコントロールも出来ないんだろう」 　レヴィは僕の髪を撫でながら、困ったような顔で見つめる。困ってるのは僕のほうだというのに。 「とりあえず、コントロールについては追々として、まずは人間の姿へ変身する方法を学ばないと。このまま、美しいお姿を拝見していたいところですが、後々、学校にお戻りになるなら、早めに学ばれたほうがよいでしょう。マリーがお手伝いできると思います」 　ニッコリと笑ってヒデュナ様はそう言うと、「お食事の用意が出来ておりますから」と言って部屋から出て行ってしまわれた。