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第145話 目覚める白金(27)
日もすっかり落ちた頃には、マリー様の特訓のおかげで、変身するまでの時間は短くなり、人間の姿を維持していられる時間は長くなっていった。
「さすが、リーナスとフローラの息子だわ。たった一日で、ここまでコントロールできるようになるなんて」
嬉しそうに僕を褒めてくれるマリー様。ベッドで横たわっている母様も、まるで僕の上達を喜んでいるかのように、心なしか顔に赤みを帯びてきているようにも見える。
「あとは、もっと長い時間、維持できるようになることですね」
「はい」
同じ姿を続けることが、まだ安定していなくて、できてもせいぜい一時間程度。これじゃ、学校に戻って勉強などできない。
マリー様に人間の姿にしていただいた僕は、マリー様とともに食事をするために部屋を出た。マリー様はドアに鍵をかけてから小さく呪文を唱える。自分以外のものが触れたら、ラッパが鳴り響くという簡単な魔法。この家の人なら大丈夫だと思いたいけれど、マリー様には念のため、という意思があるのだろう。
僕たちが今日向かったのは、少し広めの食堂だった。誰かお客様でも来るんだろうか、と思いながら席につくと、隣に座ったマリー様としばらく魔法の話をしていた。
「遅れました」
ドアの開く音と共に、エリィさんの姿のレヴィが入ってきた。疲れているように見えたレヴィに、少し不安になる。
「どうかしたの?……えっ!?」
レヴィの背後から、レヴィと同じくらい大柄な獣人の陰。
「よぉ」
片手をあげて挨拶を返してくれたのは、レヴィよりも疲労困憊気味の黒狼の姿だった。
「エミールとは、屋敷の前で、ちょうど会ってな」
「エミールっ!!」
レヴィの言葉も中途半端に耳にしながら立ち上がると、エミールのもとに駆け寄り抱き着いた。
「お疲れ様っ……大丈夫だった?」
僕は心配しながらエミールを見上げて言うと、エミールのほうは一瞬、顔を顰めて僕をジッと見てから、今度はレヴィを睨みつけた。
「おい、まさか」
「……なんだよ」
「……知らねぇぞ。じいさんに殺されても」
「……必要だったからシたまでだ」
「どういう意味だ?」
エミールは僕の頭をゆっくりと撫でながらも、レヴィを睨みつけたまま話を続けようとする。
「あの……?」
不安になってエミールの服を引っ張ると、困ったような顔で僕を見下ろしてきた。
「あ?いや……んー、まぁ、後で説明しろ。いいな」
「……」
だけどムッとした顔をしたレヴィは、エミールの言葉に返事をせずに、手を伸ばしてそばにいた僕を捕まえた。みんながいるというのに、目の前でギュウッと抱きしめてくる。レヴィに抱きしめられるのは嬉しいけれど、今は給仕に入っている人もいたりと、皆の視線があるから恥ずかしいのに。
「はぁ……癒される……」
「……身体は?」
こそっと問いかけると、レヴィが僕の額にキスを落とす。
「お前を抱いたせいか、もう治ったみたい」
僕の耳元で冗談っぽく言うレヴィに、僕は顔が真っ赤になってしまった。
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