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第146話 目覚める白金(28)
思わず、照れ臭くてポカポカと胸元を叩くと「痛っ」という声があがる。
「ご、ごめっ」
「……嘘だよ」
僕は慌ててレヴィから離れて謝ろうとしたのに、そう言って、僕をギュッと抱きしめるから、余計に恥ずかしくなる。
「……あー、いい加減、座らない?」
こんな僕たちのことを、エミールが後ろから呆れながらそう言った。
「え、あ!ご、ごめんなさいっ」
僕は慌ててマリー様の隣の席へと戻ると、エミールもマリー様の元へと行き、挨拶をかわしていた。ヒデュナ様は、まだ戻られていなかったけれど、目の前には食事が並べられていて、エミールも疲れていそうだからと、さっそく食事が始まった。
「おじいちゃんたちとは連絡取れてるの?」
僕たちとは別行動をしてただけに、エミールとおじいちゃんたちは連絡しあっているものだと思っていた。
「いや、エリィも行動を共にしているんだ。それこそ何かあればヒデュナ様のところに連絡がいくだろ」
そうか、と思いながら、固めのパンをちぎる。具沢山のトマトスープにパンをつけて、たっぷりスープをしみこませると、それを口に大きく頬張った。トマトの甘みと具から染み出した旨味に、自然に微笑みが浮かぶ。
「エミールのほうは追いかけられなかったの?」
僕はパンを飲み込むと、エミールに問いかけた。するとエミールはニヤッとしながら、肉の塊を頬張る。その豪快な様に、さすが獣人だ、と変なところを感心しながら見つめる。
「最初はついてくる影を感じたから、都とは違う方向に向かったんだ。その影が離れたのを感じて、こっちに向かった。俺にしては、新記録だね。この短時間で来れたのは」
エミールにしては珍しく自慢げに話す姿に、僕もクスクス笑いが止められない。そんな和やかな雰囲気の中、ドアが再び開いた。今度は随分と立派な格好をしたヒデュナ様が現れた。
「おかえりなさい」
皆で声を合わせて言うと、ヒデュナ様は嬉しそうに「ただいま」と言いながら、ご自分の席へと向かわれた。給仕の人々が下がる中、ホルグさんがヒデュナ様の椅子をひく。
「お疲れ様でした」
マリー様が労わるように紅い色の液体の入った瓶を、自分の席に座ったヒデュナ様のグラスへと傾けた。
「ああ。エミール様もご無事何よりです」
「はい」
「それと、ノア様。明日、午後に王宮へ向かうお迎えが来ることになっております。フローラのことは私どもに任せて、まずは国王様方へ、ノア様のご無事なお姿をお見せになってください」
「……ああ、俺も言われた」
ムスッとした顔のレヴィ。僕が練習で籠っている間に、レヴィとヒデュナ様は王宮へ行って国王様たちと会ってきていたということなのだろう。
「連れ帰ったら、親父や母さんにノアを独占されそうで嫌なんだけど」
「でも、我が家よりは、あちらの方が守りは厚いかと」
「……うむ」
返事をしながらも納得はいってない顔のレヴィに、苦笑いのヒデュナ様。僕も、レヴィのこんな嫌そうな顔を見たのは初めてで、ちょっとかわいいって思ってしまった。
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