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第149話 目覚める白金(31)
階段を急ぎ足で降りていく。もうレヴィたちは降りて待っているかもしれない。僕の気持ちは急いていた。
エントランスが見えた時、そこには誰の姿も見えない。もう先に外に出て待ってるのだろうか。屋敷のドアを開けると、階段を降りた少し先に黒い車が一台止まっていた。
「マリー様、あれでしょうか?」
僕は振り向きながら声をかけると、マリー様はまだゆっくりと階段を降りてくる途中。
「何?ノア?」
「玄関先に、黒い車が止まってるんで、あれかな、と思って」
「なんですって?」
マリー様は、僕の言葉に顔を顰めると、長いスカートをつまみながら、パタパタと降りるスピードを速めた。僕のほうは、レヴィたちは、もう車に乗ってるのかな、と思ってドアの外に出た。その時、マリー様の「待って!」という声が聞こえたような気がした。
「え?」
その切羽詰まった声に、閉まったドアをもう一度開けようと手を伸ばした瞬間、背後から僕は何者かに口を塞がれ、抱きかかえられた。
「むんっ!?」
大きな黒い掌が僕の顔半分くらいを覆ってる。この臭い……猫科の動物だ。本能的に僕にはわかった。そして一気に恐怖が湧き上がる。まさか。
「ようやく捕まえましたよ。ノア様」
その声には聞き覚えがあった。ドキドキしながら顔をゆっくりと上げてみれば、最初に村の宿屋で僕を襲ってきた、あの黒豹だった。黒豹は、それ以上何も言わず、口元だけ歪めるようにして笑って見せた。そして、すぐに僕を抱えて車のそばまで連れてくると、後部座席のドアを開けようとした。
「ダメッ!」
「ぬおっ!?」
一瞬、僕には何が起こったのかわからなかった。
誰かの叫び声とともに、ドンッ、という衝撃で、僕は黒豹の腕の中から抜け出し、地面に倒れ込む。
「痛ッ」
倒れ方が悪かったみたいで、額を地面にぶつけてしまって声が出てしまった。
「ノア様!?大丈夫ですかっ!」
僕を助けてくれたのは、なんとルイさんで青い顔をして僕の身体を起こそうとした。僕は自力で上半身を起こして、額に手をあてて見ると、指先に少しだけ血がついていた。
「大丈……っ!?」
「何しやがるっ!」
僕の返事に重なるように、黒豹の怒鳴る声が聞こえた瞬間、ルイさんの姿が目の前から消えた。
「えっ」
思わず驚きの声が漏れると同時に、遠くで、ドタッと重たいものが落ちたような音。その音がしたのは、門の近く。そちらのほうに目を向けると、石で敷き詰められている道の上に、ルイさんがこちらを向いて倒れていた。
「えっ、えっ?」
僕の倒れているところから、そこまで、ニ、三十メートルはある。
そこまで彼を放り投げたということ?
そして、ここからでもわかるのは、彼の額と口から赤い血が流れていることだった。
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