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第152話 帰還(1)
僕を助けようとしたルイさんは、かなり強く地面に叩きつけられたらしく、額からは血を流しながら、痛そうに呻いていた。でも、それもエリィさんの治癒の魔法のお陰か、徐々に苦しそうな表情から、安心した和らいだ表情に変わっていっているようだった。
それにしても、エリィさんがあんなに真っ青になって真剣な顔をしていた様子は、初めて見た。実は、おじいちゃんたちに向かって駆け寄っていく途中、聞こえてしまったんだ。
「俺の嫁になるのが小さい頃からの約束だろうっ」
そう言ってルイさんを励ましていた声を。
ルイさんがエリィさんと、そういう関係だったなんて思いもしなくて、ちょっとびっくりした。マリー様も、その様子に驚いたようで「もしかして……まぁ、まぁ、まぁ!」と、なんだか嬉しそうな声が聞こえてきていた。
結局、僕たちを迎えにくるはずの車は、まだ来ていないことだけは確かで、仕方なく、皆で屋敷の中に戻った。大事そうにルイさんを抱えてるエリィさんに「大丈夫?」と、声をかける。それにエリィさんは、ニッコリと笑って「ええ、大丈夫です。母もおりますから」と答え、マリー様のほうを見るとマリー様も頬を染めながら、やる気満々の顔で頷いた。
僕たちは、おじいちゃんとおばあちゃんを、母様の寝ている部屋へと案内する。ルイさんは、その隣の部屋にマリー様とエリィさんが連れて行った。
「フローラ……」
おばあちゃんが、ホッとしたような声でベッドに横たわっている母様のそばへと駆け寄る。母様は相変わらず眠ったままだけれど、心なしか顔色がずいぶんとよくなっている気がする。
「随分、顔色がいいみたいだな」
おじいちゃんもそう思ったみたいで、母様の額にかかっている前髪を指先でそろえていると。
ピクッ
母様の眉が少し動いたように見えた。
「えっ」
それに気づいたのは僕だけではなく、顔をのぞきこんでいた、おじいちゃんとおばあちゃんも、声もなく固まってしまった。
「か、母様?」
僕はおばあちゃんと向き合うようにベッドの反対側へと行くと、母様の手をとってギュッと握りしめた。
「母様、起きて……」
母様の手を僕の頬にあてる。今までは、少しひんやりとしている指先が、少し温かい。手には力は入っていないけれど、僕はその手を握りしめる。同じように、反対側にはおばあちゃんが手を握りしめ、優しい眼差しで母様を見つめながら、何やらブツブツと呪文のようなものを唱えてる。
僕には、おばあちゃんのような知識はない。だけど、心から祈ることは出来る。僕は握った手を祈るように、額に当てる。重なった部分が、徐々に熱を持つ。意識的に、その手へと僕のパワーが流れ込むイメージを持って握りしめると、本当に流れていくような気がしてきた。
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