153 / 160
第153話 帰還(2)
肩に誰かの手が置かれた。その力強さにレヴィの手だと、無意識に理解する。その温かさに僕の心の中まで、レヴィの力で温められている気がする。僕はひたすら、母様の手を握りしめた。
「ノアッ」
レヴィの掠れたような声が聞こえた。僕は、ハッと目を開く。すると目の前に眠っていた母様の瞼が、フルフルと微かに震えている。
「母様っ」
「フローラっ!」
僕とおばあちゃんの声が重なった。その声にピクッと瞼が反応した。そして、徐々に瞼が上がっていく。
「あぁぁぁっ!」
湧き上がる喜びは言葉にならず、声をあげながら、僕の手の中にある母様の小さな手を、グッと握りしめる。身を乗りだして母様の顔を見つめるおじいちゃんもおばあちゃん。何も言わずに、涙をぽろぽろと零しながら、母様の腕や頭を撫でている。
母様の穏やかな茶色い瞳は二人を見つめて小さく頷くと、ゆっくりと僕のほうに向いて、唇が動き出す。
「ノア……」
まるで吐息のようなその声は、僕の名前を呼んでいた。そして、母様はふわりと微笑んだ。僕は覚えていた。母様の優しい笑顔を。
「母様……っ」
僕は寝ている母様を優しく抱きしめた。
「よく、頑張ったわね……あの屋敷に来た時から……ノアのこと……ちゃんと見えていたわよ……」
久しぶりに声を出しているせいか、母様の声はとても小さい。
「無理に話さなくていいよ?」
母様の顔を見つめながらそう言うと、母様は顔を小さく左右に振った。
「お前が……無事に大きくなって……私のそばに来てくれた……本当は……あのまま朽ち果てても……いいと思っていたのに……お前が来てくれたから……」
目尻からツーッと涙が落ちていく。一気にそこまで話したせいで、母様は息が上がってしまったのか、軽く何度も息を整えた。その時、部屋のドアがノックされた。
「誰だ」
レヴィが鋭く返事をすると、ドアが小さく開き、ホルグさんが顔を覗かせた。
「レヴィ様、王宮からお迎えが……」
「わかった……ノア、行けるか?」
レヴィが心配そうに俺に声をかけてきた。僕は母様のほうに目を向けると、母様は微かに頷いた。そしておじいちゃんたちの方を見れば、二人はなんとなく察したのか、おじいちゃんはムッとした顔、おばあちゃんは少しだけ困ったような顔をしている。
「ノア……行ってらっしゃい」
母様の小さな声が聞こえた。
「母様……」
「……レヴィ様……立派になられて……貴方様なら……大丈夫でしょう……」
「フローラ……任せておけ。俺がノアを守るから」
レヴィが僕の肩を抱きしめながら、母様に優しくそう告げる。その様子に安心したのか、母様はホッとため息をつくと、再び目を閉じてしまった。
「……ノア、行ってこい。フローラはわしらが看てる」
「でも」
「どうして魔法が解けたかは、わからないけれど、こうして目を覚ましたのだもの。あとはおばあちゃんたちに任せなさい」
二人の言葉に僕はようやく頷くと、母様を気にしながらも、レヴィとともに部屋を出た。
ともだちにシェアしよう!