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第156話 帰還(5)

 それからの国王様の動きは早かった。  王家に仕えるお抱えの医師たちをアイサー邸へと派遣して、おじいちゃんたちに変わって母様の治療にあたらせた。そして国王様と王妃様、お二人がそろって、母様のお見舞いに来てくれた。それと同時に、国王様は事情聴取を行って、ハザール家によって何が行われていたのかを、知ることになった。  母様が万全な状態ではなかったこともあり、その話をするだけでも三日くらいかかってしまった。事実を知った国王様が烈火のごとく怒ったことは言うまでもない。ハザール家の当主、ナディル・ハザールへ宮殿へ来るように命令がいったにも関わらず、彼は命令に背いて現れなかった。当然、それは国王様の怒りに、火に油を注ぐこととなった。  草の根分けても探し出せ、という厳命の元、王家直属の親衛隊たちに捉えられたのはつい昨日のこと。召使のヨキと共に、人間の国へ逃亡を図ろうとしていたところを、見つかったのだ。 「ハザール家はどうなるの?」  王宮に入ってから、そろそろ一週間になろうとしている。  僕たちは王宮の中のレヴィの部屋の寝室で二人きり。僕たち二人が寝転んでも十分に大きなベッドに横たわっている。月明りの中、僕はパジャマの格好で、レヴィの腕の中にすっぽりと抱えられ、レヴィの白銀の美しい毛皮を撫でつつ、そう問いかける。 「一応、一人息子のキア・ハザールが跡を継ぐことになるだろうな」  ハザール家ほどの大きな貴族ともなると、所有している領地等の資産は計り知れない。そして、特に猫系の獣人に対しての影響力も大きかった。安易に死刑ということを選ぶことは出来ず、ナディル・ハザールは、獣人の国の北の外れにある牢獄へとつながれることになるだろう、ということだった。 「まぁ、キアも気の毒といえば、気の毒ではあるからな」 「……うん」  父親の不始末で魔法学校から急遽呼び戻されたキアは、国王様の目の前に捉えられたナディル・ハザールを冷ややかな眼差しで見下ろしていた。  彼の獣人の姿は初めて見たけれど、父親に似て、立派な体格の美しい白銀の豹の姿に、一瞬見惚れてしまった。僕より二つ下のはずなのに、獣人の姿のレヴィたちと比べても少し小さいくらいで、僕なんかよりも、よっぽども大きい。 『自業自得だ』  僕たちは、彼らから見えないところから、様子を窺っていたけれど、彼の吐き捨てるようにそう言った言葉が、今でも頭を離れない。  キアの母親は、母様がハザール家に捕らえられた日から、キアとともに別荘地のほうに幽閉されていたらしい。跡取りはキアしかいなかったし、能力的にも優秀だったおかげで魔法学校へと進学することは許された。しかし、母親のほうはあまりのショックに身体を壊して、今でも寝たきりの状態だという。  キアは母様の存在は知っていたらしい。ナディル・ハザールの監視が厳しく、一度、屋敷の中でチラリと見た程度だったそうだ。ただ、母様がいるから自分たちが蔑ろにされている。そう思ってはいた。しかし、それが僕の母であり、王家に繋がりのある者だとまでは思い至らなかったらしい。

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