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第157話 帰還(6)

「あいつのノアに対する拒絶反応は、本能的なモノだったのかもしれないな」  そう言いながら、レヴィの大きな手がパジャマの上着の中に忍び込み、直に背中を何度も優しく撫でる。その感触に、僕は無意識に甘い吐息が漏れる。 「まぁ、お前に惚れられるよりは、嫌われてくれてるほうが、よっぽどもいいがな」  レヴィの熱い息が喉元をくすぐる。その心地よさに僕はレヴィの毛並みに埋もれるようにしがみつく。このまま、触れ続けたら……レヴィに抱いて欲しくなる。初めてレヴィに抱かれた日から、こうして僕の身体に触れてくれたり、熱く唇を重ねたりはするけれど、それ以上は先には進んではくれない。  僕から強請らないとダメなのかしら。今だって、少しずつ、僕のモノに熱が集まりつつあるのに、レヴィは気づいていないのか、気づいていても無視してるのか、撫でる手は止まらない。 「でもっ……学校に戻ったら、彼とまた一緒になるし……レヴィたちが卒業したら……」  僕は一人になってしまう。レヴィの手の動きが止まり、僕をジッと見つめる。 「大丈夫。もう、お前は、魔法がちゃんと使えるだろう?」  確かに、王宮に来てからは、レヴィだけではなく、王宮に専属でいる魔法使いの方達が、しっかりと勉強をみてくださるおかげで、だいぶ、魔法のコントロールが出来るようになってきたように思う。  その学習スピードの早さに、皆さんが、『さすがナレザール・アシュレーの孫だ』と褒めてくださる。そう言われるのは、正直、まだ少し面映ゆく感じる。だけど、まともに魔法が使えなかった分、こうしてコントロールまでできるようになってくると、本当に、おじいちゃんたちの孫なんだって、実感できる。今まで、それすらも自信がなかったけれど、ちゃんと能力がある、という事実が、嬉しくて仕方がない。 「自分たちより年上なのに、力がないお前をあいつらは、侮っていたんだ。力を見せつけてやれば、苛めるようなこともないだろう。そもそも、力のあるなしで態度を変えてくるような奴らを相手になんかする必要もない……それに、人型の姿も、だいぶ安定してきてるし……どちらかといえば、本来の姿に徐々に似てきてるんじゃないか?」  確かに、魔法学校から旅立った頃は背も小さかったし、地味な茶色の髪だったけど、今は、前よりも少し背も伸びて、髪の色も少し抜けて茶色から金髪っぽくなってしまっている。 「でも……変じゃないですか?」  半獣人の姿の僕の白金の髪を、レヴィは愛しそうに撫でてくれる。その感触に僕はうっとりしてしまう。 「変どころか……心配になる」 「心配?」 「ああ……俺がいない間に、お前にちょっかいを出すヤツとかがいやしないかってね」 「僕に?そんな奇特な人なんかいないよ」  クスクスと笑いながら、レヴィの顔を見上げると、不機嫌そうな顔で僕を見下ろす。そして僕の肌を撫でていた大きな手はゆっくりと抜け出ると、パジャマの上からぎゅうっと抱きしめた。 「お前は、まったく……はぁ。まぁ、いい。明日は婚約式だ……早く、寝よう」 「はい……おやすみなさい」 「ああ」  中途半端に頭をもたげかけていた下半身は、なんとか落ち着きを取り戻す。ちょっとだけ、寂しい気もしたけれど、彼と一緒にいられるだけでも、今は十分に満足だ。  僕は、明日、公式にレヴィの婚約者として発表される。その不安もなくはないけれど、それよりも、レヴィの腕の中の温かさと安心感で、あっという間に深い深い眠りの中へと落ちていった。

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